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深刻な農家の後継者探しにM&Aは有効な手段!メリットとデメリットをあわせて解説(事例付き)

2020/03/24
更新日:2024/05/13

はじめに

少子高齢化に伴い、事業を承継することが難しい業界が多いなかで、とりわけ農業関係の承継は深刻な状況です。農作物の出来も地域や天候によって左右され、ときには天災の被害に見舞われることもあります。そんな大変な仕事のため、親も子どもも事業承継にためらってしまう実情があるようです。ここでは農業におけるM&A動向、事業承継におけるM&Aの流れ、M&Aの成功事例、承継をスムーズに行うために押さえたいポイントなどについて、株式会社すばるの代表取締役で公認会計士の牧田彰俊さんに教えていただきました。


1. 跡継ぎの減少、休耕地の増加…。農業業界の現状

初夏の田植え風景

少子高齢化に伴い、日本では人手不足が深刻化しており、農業分野も大変厳しい状況が続いています。最近では大規模な農業法人も登場していますが、小規模の零細農家や家族経営がほとんどで、兼業農家が多いのが実情です。跡継ぎの担い手も少なくなっており、休耕地も増え続けています。

その一方で農業を衰退させないために、政府系ファンドが農業を支援する事業を進めています。農業を事業化させ、収益を増やすために、作物づくりから加工、販売までを一気通貫で行う「6次産業化」(1次×2次×3次)を2011年から政府が提案し、数年前からその取り組みも始まりました。しかし、現状では思うほど成功していないようです。

現在比較的うまくいっているのは、大規模ファームの農業法人でしょう。スケールメリットを生かし、できるだけ効率化を図って、単一作物を多く収穫するアプローチで成功しています。ただし日本では飛び地が多く、集約化が難しいという課題も残っています。

2. 農業の事業承継を行う方法と、メリット・デメリット

 二人の農夫が畑で話し、手を振る

農業の事業承継をする方法には主に「親族内の継承」「親族外の継承」「M&Aによる継承」があります。それぞれの方法とメリット、デメリットを見ていきましょう。

(1)親族内の場合、周囲の理解を得やすい

個人経営で農業に従事している場合は、親から子へと、シンプルに土地や財産を相続して事業を承継することになります。親族内の承継では、後継者の教育をしやすい、周囲の理解を得やすいというメリットがあります。

農業法人になっている場合でも、従来の承継と同様です。ただ株式会社の場合は、後継者以外に相続人がいると、相続争いが起きる恐れもあります。また冒頭で説明したように、個人・法人を問わず、適任の後継者が見つかりにくいという課題は相変わらず残ります。

(2)親族外の場合、後継者の質を担保できるのが魅力

親族外で法人の場合は、会社の役員や従業員に継いでもらう形になります。また、付き合いのある取引先に事業を譲るケースもあります。たとえば農作物の加工業者に譲り、管理してもらうということも行われています。

親族外継承のメリットは、後継者の質を担保でき、社員のモチベーションがアップすることでしょう。一方で、デメリットは、法人の場合は株を買い取って事業を承継するため、後継者に資金力が求められます。さらに債務がある場合は、それらも含めて引き継ぐことになるため、承継を断られるケースもあります。

(3)全国各地から後継者を探せる「M&A」

M&Aは、専門の仲介業者などの協力により、第三者に事業を承継する方法です。個人経営の農家でM&Aが行われるケースは稀で、ほとんどが法人を対象としています。このような場合、農業を営むにあたって農地を所有(売買)しようとするには「農地所有適格法人」[a]の要件を満たす必要があります。

売手側のメリットは、全国各地から後継者を幅広く探せて、承継に至れば従業員の雇用も維持されることが挙げられます。もちろん条件が良ければ、十分な事業売却益も得られます。しかし、必ずしも希望金額の買手が見つかるとは限らないというデメリットもあります。また経営者によっては、M&A後の社風や経営方針が大きく変わるため、従業員のモチベーションが低下することもあります。

一方、買手側のメリットは、同業種ならば規模を拡大でき、農作物の種類も増やせることです。異業種の買手の場合は、大学などと共同開発した特殊な作物を求めたり、供給の原材料として自家農場を確保したりする際にM&Aを積極的に行うこともあります。新たな流通チャネルを開拓したい場合にもM&Aは有効な手段になるでしょう。

3. 農業におけるM&Aの大まかな流れ

ドキュメントを扱うオフィス従業員

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

小規模な農家では、オーナー同士のクローズドな話し合いで承継されるケースも多いため、ここではM&Aを行える規模感のある農家を前提として説明します。

(1)事前に、実態や課題の把握を行う

M&Aの場合は、まず財務や事業の実態、訴訟に絡むリーガルの問題、後継者の有無などの課題を把握します。そのうえで、農業分野に強い専門のアドバイザーを探したのち、買手とのマッチングを実施するという流れになります。

(2)M&Aの検討時に考慮すべき点

アドバイザーを見つけるのにも、手数料としてミニマムフィーがかかるため、それなりの規模感がないと難しいケースもあります。ただし最近では、中小規模の農家であっても、ネットから条件にマッチした買手を探せることもあります。

デューデリジェンス(DD)については、農業では主に不動産(農地)が中心になります。耕作地の場合は、その土地に水源が確保されているかなどといった環境面での調査が入ります。またリースではなく、設備や機械を自前で購入している際には、M&A後に古いものを刷新しなければならないこともあります。あとで思わぬ出費がかさまないように、やはり現地での調査が重要になります。

4. 経営が苦しかった農業法人が初年度で黒字へ【M&Aの成功事例】

 温室で働く農家の若いカップル

たとえば我々が手がけた案件の成功事例として、経営的にうまくいってなかった農業法人のM&Aが成立したケースがあります。

この農業法人は、もともと栄養価の高い作物を独自生産している強みがありました。これに着目したバイオメーカーが、同法人の作物からサプリメントなどの新規商品を開発する目的で、M&Aに踏み切ったのです。結果的に初年度で黒字に転換することができました。

この農業法人は負債が大きかったため、「第二会社方式」の再生型M&Aを行い、事業を切り離して譲渡しました。本方式は、自主再生を図るために親族などを代表とする新会社を設立し、そこに事業の維持に必要な従業員や取引先を移行します。残された債務は残資産などを売却したのち、清算するという形です。

元のオーナーは「経営者保証ガイドライン」に沿って実質的に債務が免責されました。現在もグループ企業内で働いており、双方がWin-Winになりました。

5. 農業の事業承継をスムーズに行うためのポイント

収穫されたコーヒー果実を示す農業の手

農業従事者は年々減っており、事業承継もスムーズに進まない実情があります。しかしそのような中でも、前述した農業法人のように事業承継を成功させるために、日頃から下記3点を意識しておきましょう。

(1)利益を出し、キャッシュを回す

しっかりと農業で利益を出し、キャッシュを回していることが、大切です。当然のことですが、経営がうまくいかず、負債も大きいと、なかなか承継者が現れませんし、M&Aでも買手がつきません。

(2)独自ブランド商品を作るなど、差別化を図る

企業や事業としての足元を固めたうえで、しっかりと事業承継できるような準備が求められます。たとえば特定品種など独自ブランド商品を作り、他農園と差別化を図って、強みや価値をつければ、次世代にスムーズに事業をバトンタッチできるでしょう。

(3)良好な人間関係を構築しておく

親族外の承継あるいはM&Aでは、地域の組合や寄り合いの承認やコンセンサスを取る必要も出てきます。一般的な事業であれば自由に承継できますが、農業では少し高いハードルが高くなることも頭に入れておきましょう。そのため普段から話し合いができるような人間関係を構築しておくことも重要です。

農業における事業承継は、個人農家は親族内での承継がほとんどで、農業法人では親族外やM&Aが多くなっています。それぞれメリットとデメリットがあるため、当事者の状況を踏まえて検討しましょう。後継者が見つかり、M&Aでも買手が現れるように、日ごろから独自性や強みを伸ばし、事業に「磨き」をかけていくことが大切です。

話者紹介

牧田彰俊のプロフィール写真

株式会社 すばる 代表取締役/牧田公認会計士事務所 代表 公認会計士/株式会社 保険のすばる 代表取締役会長

牧田彰俊(まきた あきとし)

有限責任監査法人トーマツ入所、各種業務の法定監査、IPO支援に携わる。その後、ファイナンシャルアドバイザリーサービス部門や、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社でM&Aアドバイザリーとして、豊富な成約実績を収める。 2018年に牧田公認会計士事務所を設立し、現在に至る。

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