現経営者から後継者へ、事業引き継ぎのポイントや手続きを徹底解説!
はじめに
中小企業の後継者不足は、日本経済に大きなダメージを与えかねないほど、今や深刻な問題の1つとなっています。国や地方自治体も様々な政策でサポートしていますが、人口減少や高齢化と相まって、問題解決には未だ至っていません。
M&A仲介業務に長らく携わってきたインターリンク株式会社の代表取締役社長である菅原秀樹さんに、中小企業の置かれた現状から事業承継を成功させるためのポイントまで詳しくお話を伺いました。
事業をどのように引き継ぐべきか、後継者問題を抱えている経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.そもそも事業承継とは
事業承継とは、企業の経営権や事業そのものを後継者へ引き継ぐことです。企業が保有している資産だけでなく、企業のブランドや信用、取引先、場合によっては負債まで引き継ぐこともあります。
後継者の対象は、大きく次の3つに分けられます。
・子どもや親族内の誰か(親族内承継)
・自社内の優秀な社員(親族外承継)
・社外の第三者(M&Aなど)
2.中小企業が抱える後継者問題の現状は
中小企業の後継者問題をマクロ的に捉えると、今後10年もの間に、70歳以上(平均引退年齢)の経営者数は約245万人に上るといわれています。うち約半数の127万人(日本企業数の約3分の1)は、後継者が決まっていないであろうと予想されています。
中小企業が大半を占める日本において、中小企業の後継者問題は、そのまま国の経済に大きな影響を与えかねません。そのため政府は、2017年に「事業承継5ヶ年計画」を策定し、集中的な支援を始めました。
「事業承継5ヶ年計画」では、適切な事業承継を完了させるためには10年ほどの期間が必要と試算しています。70歳代で引退できるように、遅くとも60歳代で事業承継を始めるよう推奨していますが、実際には危機感を持って事業承継に取り組んでいる経営者が少ないと言わざるを得ません。
国や地方自治体が様々な支援策を打ち出しているにもかかわらず、大きな流れに歯止めがかかっていないというのが現状でしょう。
3.後継者不足問題の背景とは
それでは、後継者不足の背景には、どういった事情が考えられるのでしょうか。
(1)経営者の意識の変化
昔の経営者は、多くが60歳代に事業承継をし、70歳代には現役引退する人がほとんどでした。
それに比べて現在は「人生100年時代」といわれ、70歳代でも心身共に健康で、バリバリと働いている経営者が多いです。充分に働けるという自信から、後継者を探し始めるのが遅くなっていることが事業承継を遅らせる原因の1つと考えられます。
実際、70歳代で引退するどころか、ほかの企業を買収してより大きな企業へ成長させようと頑張る経営者もいるほどです。現在の70歳代は、高齢者という枠組みに当てはめるには精神的にも肉体的にもまだまだ若いと考えている人が多いということでしょう。
(2)産業の衰退への不安
経営者が事業展開している産業全体の将来像が見えないことも、事業承継にブレーキがかかる要因の1つのようです。グローバル化やIT化によって、これまでの経営方針では立ち行かなくなっていくことが予想され、自身の子どもや身内への事業承継は厳しいというのが本音でしょう。
こういった状況は、特に小売業界で顕著です。製造業も海外に移転する企業が増えていますが、将来を見通すと厳しいでしょう。
今は、海外企業の安くてクオリティーも高い商品と競争しなければなりません。大企業のように潤沢な資本があれば別ですが、中小企業が自社のみで戦うには、人材的にも資金的にも限界があります。
こういった市場の状況から、身内への事業承継を諦め、M&Aを選択する経営者が増えています。大企業へ譲渡することで、自社の存続が図られるとともに雇用も守られます。
(3)個人の考え方の多様化
経営者に子どもがいても、子ども自身が後継者となることを望んでいないというケースも多いようです。高い教育を受けられる2代目、3代目ともなれば、高学歴を活かして大企業に就職すれば安定した生活が手に入ります。
会社経営に苦労している父親の姿を見てきた子どもであれば、なおさら事業の引き継ぎには二の足を踏むことでしょう。一昔前のように、子どもが継ぐのは当然という考え方は、既に廃れています。
働き方改革により、ライフスタイルの多様性が浸透しつつあることも一因でしょう。企業に縛られることなく自由な生き方を求め、自分なりのライフスタイルを構築できるような社会へ変容してきています。今後は、より一層このような流れが加速することが考えられます。
4.事業承継の内容とは
事業承継は、事業の引き継ぎだけではなく、その内容は多岐にわたります。大別すると次の3つになるでしょう。
・経営権の引き継ぎ
・株式や不動産の引き継ぎ
・社員や自社の技術・ノウハウの引き継ぎ
(1)経営権の引き継ぎ
後継者は、現経営者から企業の経営権を引き継ぎ、その後に企業を経営していくこととなります。
企業の経営は、経営者としての資質が充分であっても、企業や社員を守り抜くという覚悟がなければ務まりません。後継者を選ぶ際には、その資質や覚悟がともに足りているかを見極めることが大事です。身内から後継者を選ぶときには、時間をかけて教育・育成することが成功へのカギといえるでしょう。
(2)株式や不動産の引き継ぎ
経営権を承継するために、企業の株式を後継者に引き継ぐことが必要です。株式の譲渡には、相続や税金問題も絡んでくるので、専門家へ相談しましょう。後継者が株式取得のための資金を持っていない場合は、事業承継は難しくなります。
(3)社員や自社の技術・ノウハウの引き継ぎ
事業承継の場合は、決算書などで目に見える数字以外の知的財産や無形の資産も引き継がれます。例えば、優秀な人材や自社のユニークな技術、ブランド、取引先、顧客などがこれに当たります。
ほとんどの中小企業では、このような財産は経営者が保有していることが多いため、事業承継は慎重に行うことが大切です。
5.後継者のいない経営者が取るべき選択肢とは
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
後継者がいない場合、経営者の選択肢は次の6つです。企業の規模や属している産業によっても選択肢は異なりますが、後継者がいない場合はいずれかを選ぶことになります。
・親族内の誰かへ承継する
・社員へ承継する
・M&Aによって承継する
・上場する
・マッチングサイトで後継者を募って承継する
・廃業を選ぶ
(1)親族内の誰かへ承継する
事業承継というと、まず親族内承継が思い浮かびます。多くの中小企業はオーナー企業であり、家族や親戚内で経営している企業も多いです。自身の子どもがいれば、まず子どもへの承継を考えますが、後継者の器ではないと判断する場合は、ほかの親族への承継を考えた方がいいでしょう。
オーナー企業では、従来、親族内承継が多かったのですが、昨今はあえて社外に後継者を求める企業も増えつつあります。
(2)社員へ承継する
親族内での承継が難しい場合、自社内の社員を後継者として迎えることも選択肢のひとつです。
一緒に働いてきた社員であれば、事業承継後も経営方針やこれまでの社内文化が大きく変わる心配が少ないです。現経営者との関係も安定しているため、同じ方向を向いて事業承継を進められるでしょう。
また、経営者側も時間をかけて後継者に足る人物を選ぶことができます。見込みのある人材を早くに見出し、時間をかけて教育していくことも可能です。
しかしながら、社員への事業承継は、社内に後継者として充分な資質を備えた人材がいることが前提です。資質が充分であっても、本人に引き継ぐ意志がなければ、そもそも社員への事業承継は難しいです。
さらに一番の難点は、資金面といえます。先述したように中小企業の多くがオーナー企業であるため、後継者は事業を引き継ぐために経営権を買う必要があります。
通常、企業の一社員がそれほどの資金を保有していることは稀であり、それが理由で事業承継を諦めざるを得ないというのが現実です。
(3)M&Aによって承継する
親族や社内に後継者がいない場合は、社外で後継者を探す必要があります。現在は、中小企業の事業承継においても、M&Aの利用は珍しくありません。
実際、事業拡大や新規事業参入のために、最初からM&Aを選ぶ経営者も増えつつあります。買手企業が経営を引き継いでくれるため、雇用もそのまま維持されます。
(4)上場する
中小企業のなかでも将来有望であると見込まれる場合は、上場も視野に入れることが可能です。上場できれば、多くの資金を不特定多数の人から集めることができます。さらに企業内の透明性が強く求められるので、結果的に信用が高まり、M&Aにおける事業承継でも買手が見つけやすくなります。
しかし、上場するためには厳しい条件を満たす必要があり、多くの中小企業にとって非現実的な選択といえるかもしれません。優れた技術がある企業であれば、より大きな企業に買収してもらい将来的に上場という形もあり得ます。
子どものように育てた企業をどのように次の世代へ引き継ぐのか、経営者の判断が問われるのではないでしょうか。
(5)マッチングサイトで後継者を募って承継する
後継者のいない経営者が選択できる方法として、マッチングサイトの利用が挙げられるでしょう。マッチングサイトとは、企業を買いたい人と売りたい人をつなぐためのサイトです。後継者問題が顕在化したことで、M&Aに特化した多くのマッチングサイトが誕生しています。
マッチングサイトは、M&Aの仲介会社を介さないような小型案件に向いています。より手軽に事業承継を始められ、上手く利用することで適切な譲渡先が見つかる可能性もあるでしょう。
(6)廃業を選ぶ
どうしても後継者が見つからないといった場合は、廃業という選択になるでしょう。経営に行き詰まり、法的に企業を清算する倒産ではなく、会社の負債を完済できることが条件です。
自社の将来性が望めないのであれば、廃業も1つの経営判断でしょう。無理をして子どもや社員に引き継いでもらい、リスクを負わせる必要はありません。
しかし、中小企業庁の調査によると、廃業を予定している企業の4割が、まだ事業を継続できるにもかかわらず廃業を選択しているという結果が出ています。
廃業することで、経営者は後継者問題の悩みからは解放されますが、一緒に働いてきた社員は職を失います。社員のみならず、取引先や顧客にも迷惑をかけることは免れないでしょう。
廃業も1つの選択ではありますが、すぐに経営を諦めるのではなく、ほかの対策を講じた上で、どうしても後継者が見つからないといった場合の最後の手段として考えるべきではないでしょうか。
中小企業とはいえ、ある程度の規模に成長した企業が廃業という手段を取ることは難しいといえます。何らかの方法で、事業を引き継ぐことを考えなれければなりません。
6.事業承継を成功させるためのポイントとは
事業承継を成功させるために、前もって準備すべきことを紹介します。事業承継はまだ先の話と捉えるのではなく、できることから始めることが事業承継を成功へと導きます。
(1)魅力ある企業に整えていく
事業承継を考え始めたら、自社の経営状況や強みを把握し、相続する価値のある企業にしておくことは大事です。
小売業でいえば、適正規模の店舗をいくつか経営している企業は将来性があり、買手企業からみても魅力的でしょう。現在の収益ではなく、買手企業が欲しいと思えるようなスペックを持った企業を目指すべきです。
(2)オーナー個人と企業の資金を明確に区別する
オーナー企業でよくありがちな話ですが、オーナー個人と企業の財布が曖昧になっている場合は、しっかりと分けることが大事です。後継者にとっても、曖昧な資金の流れがあると事業承継に不安が残ります。
企業を引き継ぐのが個人であれ法人であれ、資金の流れをクリアにしておくことは必要不可欠です。
(3)専門家に相談する
事業承継は、経営者として何度も経験することではないので、どのように進めればいいのか具体的な流れを知らない経営者は多いでしょう。事業承継を進めるときは、専門家に相談することをおすすめします。経験と知識が豊富なので、幅広いネットワークから最適な譲渡先が見つかる可能性が高くなります。
金融機関や公共団体も事業承継を後押しするサービスを提供していますが、取引金融機関への相談には、与信関係を含めデリケートな問題もあるので、慎重を期することが極めて重要です。また、社員へ情報が漏れる危険は絶対に回避しなければなりません。不安になった社員が強く反発し、場合によっては退職してしまい、事業承継そのものが反故になる可能性も出てくるでしょう。
もちろん譲渡先が決まった時点で、社員や取引先への説明は必須ですが、事業承継を進めるにあたっては踏むべきプロセスがあります。
7.事業承継の流れ
では、事業承継がどのような流れで行われるのかを見ていきましょう。
(1)企業の資産や価値を把握する
まず、後継者に引き継ぐべき企業の資産や価値を把握することは、非常に大事です。その企業にとっての強みは、優秀な社員なのか、卓越した技術なのか、実績のある取引先なのか、考えられることを洗い出してみましょう。
M&Aを行う際には、自社の価値を把握できていないと、本来の価値より過小評価されるリスクがあります。また、自社についてよく考えることで、現在の問題点が浮かび上がり、改善できるきっかけとなる場合もあります。
(2)専門家に相談する
事業承継を決めたら、専門家の力をぜひ借りましょう。彼らは、事業承継のプロですから、その会社に適した承継方法についてアドバイスしてくれます。
また、自社の企業価値算定を自ら行うのは難しいので、専門家に依頼するほうがいいでしょう。公平な立場で企業価値を算定できるばかりか、経営者が見逃していた強みを発見できるかもしれません。
(3)事業承継の方法を選択する
専門家に依頼し、自社の企業価値が判定されたら、どのような事業承継がいいのかを判断します。親族承継なのか、社員へ引き継ぐのか、それともM&Aを行うのかを決めていきます。
社外への事業承継を選択した場合は、事業承継のM&A仲介会社に依頼することをおすすめします。
(4)親族や社員へ説明する
事業承継の相手が決まれば、親族や社員へ時間をかけて丁寧に説明しましょう。突然、見知らぬ人がきて「今日から社長になります」と言われて納得する人はいません。
不信感を抱いた社員が退職してしまったら、元も子もありません。事業承継することで、企業の将来像を見せてあげ、社員を安心させることは大事です。
また、事業承継には相続や税金問題も含まれるので、しこりが残らないように親族への説明は不可欠といえるでしょう。
(5)事業承継を実行する
自社にとって最適な事業承継の方法が決まり、社員や親族の理解が得られたら、事業承継を進めます。
親族や社員を後継者とした場合は、株式の譲渡による事業承継となります。ただし、株式の譲渡で終了ではなく、並走しながら後継者を教育していくことが大事です。この場合は、おおむね10年ほどの期間を要するでしょう。
他方、M&Aであれば事業譲渡や株式譲渡の手続きによる事業承継となります。買手企業が決まれば、買手側の経営者が経営を引き継いでくれるので、親族内承継ほど時間はかかりません。
8.事業承継の際によく起こりがちなトラブルとは
事業承継を行うにあたって、よく起こりがちなトラブルとしては、次の2点が考えられます。これらの問題は、事前に対処することで防げます。
(1)株券のありかが不明
過去に株券を発行した企業の事業承継のときには、企業の株券を後継者に引き継ぐ必要がありますが、その株券がどこにあるか把握できていないオーナーもいます。株券を所有していた人が転居し、その後連絡が途絶え、また既に亡くなっているということも往々にしてよくあります。
普段から自社の株券がどこにあるのかを把握し、いつでも譲渡できるように事前に準備しておきましょう。
(2)社員がM&Aに反対する
事業承継に反対する社員は、少なくありません。雇用は守られますが、買手側はどのような経営方針なのか、待遇や給与に違いはないのかなど不安を感じるのは当然です。日頃から、経営者自身が、事業承継を視野に入れていることを伝え、社員にもその心積もりをしておいてもらうこともひとつの方法でしょう。
9.まとめ
後継者不足の問題は、日本全国で深刻化しています。後継者が見つられず、経営を断念する経営者も少なくありません。政府もこういった状況に危機感を抱いており、様々な政策でサポートしていますが、決定的な解決には程遠いと言わざるを得ません。
このような状況のなか、親族内承継ではなく、社外への事業承継を選ぶ経営者は多くなっています。
今後は、このような形の事業承継が、一層増えていくのではないでしょうか。経営者は改めて自社を見直し、将来の事業承継に備えて早めに準備に取り掛かることが、事業承継を成功させるカギといえるでしょう。
〈話者紹介〉
インターリンク株式会社
代表取締役社長 菅原 秀樹
1991.4 M&A専門企業㈱レコフ入社
1997.9 ㈱インターリンク入社
2010.8 インターリンク㈱設立し代表取締役就任、旧㈱インターリンクの事業を承継、現在に至る。
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