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医療法人(病院・クリニック)の事業承継におけるM&Aのポイント

2019/12/05
更新日:2021/06/23

はじめに

少子化と高齢化が進み、国の財政赤字が拡大するなか、医療や介護など社会保障費の増大が問題となっています。その流れを受けて、医療業界も軒並み縮小傾向が続き、地域医療の存続・発展のためにM&Aによる事業承継を検討する医療法人(病院、クリニック)も増えています。ここでは、医療法人を取り巻く現状を紹介しながら、医療法人M&Aのスキーム、買手候補、M&Aを検討する場合に準備すべきことを紹介します。


1.医療法人(病院・クリニック)のM&Aが増えている理由

医療法人のM&Aはあまり聞いたことがないという人が多いでしょう。なぜなら、医療法人には上場企業のような情報公開の義務やルールが適用されていないので、医療法人が別の医療法人に売却されたとしても、マスコミに大きく報道されることは少ないことが医療法人のM&Aが一般の話題に上らない一因だからです。

しかしながら、医療法人(病院・クリニック)の間でM&Aを活用した事業承継が増加しているのはまぎれもない現実なのです。そこで、医療法人のM&Aが増加している要因について以下に解説します。

(1) 後継者不在・人材不足

医療法人のM&Aが増えている最も大きな要因は「後継者不在」と「人材不足」にあります。現在、開業医の平均年齢は60~70代で、ほとんどが事業承継を検討する年代にさしかかっています。しかし、経営者である医師の子息が医師であっても、「異なった診療科目」や「地元ではなく都市部での開業を希望」などを理由に、子供が親の後を継がないケースが多いのです。親族以外に後継者を探しても、少子化の影響で適任の人材が見当たらないというケースも少なくありません。このままでは廃業を余儀なくされるという状況に陥り、「廃業よりもM&A」を選択する医療法人が増加してきているというのが実情なのです。日本社会の少子高齢化現象はしばらく続くと予測されているので、この傾向は当分続くと考えられます。

(2) 診療報酬の引き下げ

診療報酬とは、医療保険から医療法人に支払われる医療費のことで、現在医療費は患者が3割、医療保険から7割の負担比率です。このまま少子高齢化が進むと、患者は増えるのに保険加入者は減少していくことになり、今の負担比率が維持できなくなる恐れがあります。この不況下で患者に金銭的負担をかけるのは難しい状況もあり、診療報酬を改定して報酬額を引き下げる政策となったわけです。

しかしながら、診療報酬の引き下げは医療法人の収入減に直結するため、このまま赤字経営に陥るのならば、いっそのことM&Aで別に活路を見出そうと選択する病院経営者が増えてきたことが、現在の医療機関のM&A増加傾向の背景にあります。

(3) 医療法人の新規開設や増床が困難

医療機関のM&Aが増えている要因のひとつに、病院や診療所の新規開設や医療機関の病床(ベッド)数を増やすことが法律で制限されていることも挙げられます。厚労省は「基準病床数」という全国統一の算定式を規定しており、既存の病床数が基準病床数を超える場合には、その地域の病院・診療所の新規開設も増床も不許可となるのです。

この規定により、新規開設を断念した医療法人がM&Aで既存の医療機関を傘下に収めるという構図が成り立っているわけです。


2.医療法人(病院・クリニック)では廃業も増えている

本来ならばM&Aでの事業承継が望ましいのですが、やむなく廃業となる医療機関も増加傾向にあります。売手と買手の交渉が決裂するケースや、買手が見つからずに時間切れで廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。

金銭的かつ人的な損失が大きい廃業よりも、M&Aでの事業承継のほうが多くの面でメリットがあるはずですが、M&A専門の仲介会社ではない怪しげなブローカーなどが仲介したことで、商談が売手側の意図しない方向に進んでしまった失敗例も報告されています。M&Aという大きな企業間契約では、やはり信頼出来る仲介会社を仲介役とすることが望ましいでしょう。

なお、医療機関における近年の休廃業や経営実態については次のデータを参照してください。

■医療機関の休廃業・解散件数の推移

医療機関の休廃業・解散件数の推移

■黒字病院・赤字病院の割合の推移

黒字病院・赤字病院の割合の推移


3.医療法人がM&Aをするメリット

医療法人のM&Aについて、売手と買手のメリットを挙げてみましょう。

(1)売手のメリット

・地域医療保護と雇用の継続

医療法人は、地域医療に貢献するという社会的役目を担っています。廃業ではなくM&Aによって事業が継続することで、地域の患者の不安は払拭されるとともに医療スタッフの雇用も守られます。

・コストの削減効果

医療施設の廃業には、施設にある多くの医療機器、什器、薬剤の処分そして建物の原状復帰などが必要となり、多額の費用がかかります。M&Aはこういったコストの削減効果が大です。

・経営の効率化

複数の医療施設を経営する医療機関がひとつの施設をM&Aで手放すことにより、売却益を設備投資へ有効利用出来るので経営の効率化が図れます。

・医療行為に専念出来る

M&Aによって経営者の肩書がとれ、売却先の医療機関で医師としての勤務が可能です。煩雑な経営業務を離れ、医師としての本来の医療業務に専念できます。

(2)買手のメリット

・医療スタッフの継続雇用

医療設備だけではなく医療スタッフもそのまま業務を継続出来るので、採用や教育にかかる手間と時間が節約できます。

・初期投資が不要

医療機関のハードとマンパワーが継続出来るので、新規開院に必要な初期投資が不要です。患者を丸ごと引き継げるので運転資金が節約でき、将来の業務計画を立案しやすいという経営上のメリットがあります。

・既存業務とのシナジー効果

既存の医療施設とは異なる医療業務分野が傘下に入ると、既存業務とのシナジー効果が期待できます。
なお、医療法人のM&Aにおける売手と買手のメリットの詳細については、次のサイトを参考にしてみてください。

 


4.医療法人のM&Aスキーム

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

医療法人のM&Aには、どのようなスキームがあるのでしょうか?

以下に四つのケースを挙げてみましょう。

(1)出資持分譲渡

医療法人のM&Aが活性化している要因のひとつに、医療法人の出資持分の譲渡が自由という点があります。すなわち、医療法人の出資持分は有価証券としての財産価値があるとみなされているので、買手にとって出資持分譲渡を目的とする医療法人の買収には魅力があるのです。

(2) 事業譲渡

医療法人のM&A手法で目立つのが事業譲渡形式です。たとえば売手の医療法人が不採算事業をM&Aによって手放すことで赤字部門の清算となります。買手にとっては公官庁の許認可申請や求人などの手間、時間、経費なしで新規事業の展開が出来るのです。一般企業とは異なり法規制というハードルがある医療事業だけに、事業拡大を図る医療法人にはM&Aでの事業譲渡が有効的手段となります。

(3) 合併

二つの医療機関のうち、片方がもう片方に吸収される形で一つになるのが合併型のM&Aです。医療業務の効率化という面ではメリットも大きいのが合併ですが、合併によるプラス面と同時に買手が売手の負債を負うケースもあります。したがって事前調査を慎重に行い、正確な負債額を算定した上で合併に踏み切ることが重要です。

(4) 役員交代

医療法人における院長や理事、役員などの幹部をそっくりそのまま入れ替える「役員交代」方式のM&Aがあります。医療法人としての社会性はあるものの、役員を一新することで事業の立て直しを図るという意味合いを持つのです。この場合、旧役員の退職金など処遇面で揉めごとが起きるケースが多いため、過去の事例を参考にして慎重に進めることが肝要でしょう。


5. 医療法人のM&Aにおける買手はだれか?

医療法人のM&Aにおいて、買手となっているのはどのような法人なのでしょうか?そしてそれらの法人は何を目的に医療法人を買収しようとしているのでしょうか?

以下に三つのケースを挙げてみましょう。

(1)これから開業する医師

まず買手候補に挙げられるのが、開業を希望する医師です。前述したように、医師にとってクリニックを新規開業するコスト負担は大きく、承継開業したほうが初期投資額や運転資金の面で優位性があります。また、スタッフや患者さんとのつながりごと経営を引き継げるので、事業としての立ち上がりが早く、安定して開業出来るというメリットがあります。

ネットには、新規開業医院の情報サイトがいくつかあり、それらを閲覧して探す方法がよいでしょう。そのほかでは求人情報サイトで医療関係のカテゴリを検索すると、新規開業による求人が見つかる場合もあります。

(2)すでに事業をしている医療法人

事業を拡大したい、エリアを広げたい医療法人も買手候補になります。病院やクリニックのM&Aでは比較的内科の人気が高く、買手希望が多い状態にあります。また病院の譲渡の場合、病床過剰地域でもM&Aを活用することで新規参入が可能になるため、買手のメリットが大きいと言えるでしょう。

M&Aで内科の人気が高いのは、外科に比べて内科医療法人の数がはるかに上回っているからです。厚労省による2017年の調査によれば、同前年時点で内科が6,785施設であるのに対し、整形外科は4,924施設と内科の数が圧倒しています。医療施設の数が多いということは患者の数も多いということになり、病院経営の安定につながります。高齢化社会の現実を考慮すれば、M&Aならば外科よりも内科という傾向が強くなっているわけです。

なお、買手となる医療法人の探し方については「M&A仲介会社に相談する」、「M&Aのマッチングサイトで検索する」などが考えられます。

(3)株式会社などの営利法人

株式会社などの営利法人が、医療法人を買収するケースも見受けられます。具体的には、介護事業を行う会社が新規事業として医療法人を買収するケースや、経営状況が厳しい医療機関の再建を目的としてファンドや経営コンサルティングを行っている会社が買収するケースがあります。

本来であれば医療法人は営利性が否定されているため、株式会社などが医療法人の経営に直接的に参画することはできません。しかし、役員を送り込んだり、病院の土地建物の取得やファクタリング(診療報酬債権)等の方法を用いたりして間接的に経営に関わることができます。買手の候補者を広げて株式会社への譲渡も検討される場合は、まずはM&Aアドバイザーなどにご相談頂くのがいいでしょう。


6.医療法人を売却する際の注意点

(1)患者を減らさない

M&Aの準備を進める上で気をつけたいのは、買手を探す前に患者さんを出来るだけ減らさないことです。ご相談いただく医療機関の中には、例えば、すでに診療を午前だけに変更するなど、患者さんを減らしてしまっていることがあります。買手もより条件がよく患者数の多い案件を引き継ぎたいと考えており、患者さんが減っていくにつれて買手が見つかりにくくなる傾向にあります。

(2)新しい機器の購入は控える

M&Aの準備を進める際には、新しい機械の購入なども気をつけたほうがよいでしょう。例えば、消化器内科クリニックで内視鏡を購入した後に譲渡したいと思っても、循環器内科の先生が引継ぐことになった場合は内視鏡が無駄になってしまうなど、同じ内科の先生でも専門によっては購入した医療機器が不要となることもあります。


7.医療法人のM&Aで買手が注意すべきこと

医療法人の経営に新規参入する場合に注意すべき項目を次に挙げてみました。

(1)経営と社会貢献のバランス感覚が必要

異業種の企業が医療事業に新規参入する場合には、医療法人の経営に実績があり信頼出来る人物の意見を参考にして売買契約を締結することが好ましいでしょう。そしてできれば、買収後もその人物を経営に参加させることです。医療法人は民間企業とは異なり、利益追求のみではなく地域医療貢献という重要な役割を担っており、経営と社会貢献のバランス感覚が大切なのです。

(2)参入する分野に詳しい人物のサポートを

既存の医療機関がM&Aによって新分野の医療事業を展開するケースでは、やはりその分野での経験値が高い人物のサポートが必要となるでしょう。


8.医療法人の買収・売却におけるM&A仲介会社の選び方

医療法人の売買契約では、M&A紹介会社の仲介が必要不可欠といわれています。そこで、M&A仲介会社の選び方のポイントについて次に挙げてみましょう。

(1)実績の有無と実績内容

医療法人の業態には、民間企業と異なる部分がかなりあります。医療法人以外の会社が買収を希望するケースでは、医療法人のM&Aに実績のあるM&A仲介会社が適しています。そして売手・買手ともに満足しているのか、その実態を調査してみるのが賢明でしょう。

(2)機動力のある業者が望ましい

少しでも早くM&Aを実現させたい企業にとって、連絡すればすぐに対応可能なM&A仲介会社が理想です。ときにはイレギュラーな要望にも対応出来るような柔軟性のある業者ならば、商談から成約までの流れが順調に進行できます。

(3)提案型のサポートシステムはあるか

医療法人に限らず、一企業のM&Aは頻繁にあるものではありません。特に売手にとっては初めてのM&Aが最後となるケースがほとんどです。そこで交渉過程において、適切なアドバイスやタイムリーな助言をしてくれるM&A仲介会社が理想です。


9.医療法人のM&A事例

医療法人のM&Aは近年ますます増加傾向にあります。どのような企業が医療法人のM&Aに関わっているのでしょうか?

最近の事例を挙げながら解説しましょう。

(1)大手警備会社による病院の買収

全国に拠点を持つ業界最大手の警備会社S社は、1998年に経営危機に陥った千葉県の病院を買収しました。まったくの異業種企業が病院経営に参入するということで、当時大きな話題を呼びます。非営利性が要求される医療法人には剰余金の配当が禁止されているため、病院の土地建物を医療法人に貸与するリースバック方式が採用されたことも、今後民間企業が医療事業に参入する方法として注目されています。

(2)大手医療法人グループによる吸収合併

全国に展開する大手医療法人グループT会に所属する沖縄の医療法人が、2018年に同じ沖縄の医療法人Y会を吸収合併し、同会に所属するT病院を傘下に収めることが報道されました。T病院は内科から整形外科まで幅広い医療を行っており、54の病床を有する規模であったものの後継者不足による廃院が噂され、地域住民から不安の声が挙がっていました。今回の吸収合併によって地域医療が維持され、さらなる発展が期待されます。医療法人のM&Aとしては理想の結果とも称されています。

(3)日本有数の電機メーカーによるM&A

世界規模の総合電機メーカーとして知られるH社が、2014年に同社が経営する東京都内の病院を、複数の病院を有する医療法人O会に事業譲渡しています。H社は創業50周年記念事業として地域医療の貢献のために病院を設立していましたが、病院事業の赤字解消のためにM&Aに踏み切ったとみられています。今後も、このような大企業による医療部門切り離しを目的としたM&Aが起きることが予想されています。


10.まとめ

自分が手塩にかけて育ててきた病院やクリニックを手放すことについて、抵抗感があるのは当然です。医師は比較的長く現役を続けられる職業で、診察を続けている限り通い続ける患者がいれば、それが現役を続けるモチベーションになります。しかし、どんなに元気な方でも年齢とともに体力の衰えや視力の低下が進むものです。事業承継は経営者の最後の大仕事ともいわれており、入念な準備が欠かせません。特に病院・クリニックのM&Aは、企業のM&Aに比べると買手と売手の数が限られており、成約までに時間がかかる傾向にあります。引退の準備は早ければ早いほどよいと言えるでしょう。

 


話者紹介

株式会社ミナト
代表取締役 猿田 京平(さるた きょうへい)

北海学園大学を卒業後、 医療・介護機関向け人材・採用支援を行う株式会社キャリアブレイン(現株式会社CBホールディングス)に入社。 医療・介護業界の人材紹介業務に従事。入社後に医療・介護機関を対象にしたM&A事業の発足に伴い、M&A の案件発掘などを経験。同社を退社後、北海道札幌市にて株式会社ミナトを設立。地域の医療・介護機関に向けた人材紹介から事業承継、M&A支援を行う。

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