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調剤薬局市場でM&Aが増えている理由とそのメリット

2019/10/08
更新日:2020/02/06

はじめに

近年、調剤薬局市場のM&Aが活発化しています。その理由と背景にはどのようなものがあるのでしょうか?また、調剤薬局市場でM&Aを行う際に生じる問題や買手側のメリットは、M&Aを進める上で知っておきたいところです。

調剤薬局のM&Aフロー、M&Aを成功させるためのポイントについて、M&A の専門家・岸田 康雄氏に解説していただきます。


1.調剤薬局業界の現状

調剤薬局のM&Aを考える上では、業界動向について理解する必要があります。

そもそも、医師が病状を診察して処方箋を発行し、その処方箋に基づいて薬剤師が薬の処方を行う「医薬分業」の考え方は、日本では明治時代初期に始まったと言われています。現代日本で本格的に「医薬分業」が普及しはじめたのは、日本薬剤師会が1974年を「分業元年」とするなど1970年代以降のことです。その後、1990年代以降の院外処方の増加を経て、現在の医薬分業率は70%を超えています。

1970年代や80年代頃、調剤薬局の黎明期に調剤薬局を開業したオーナーは、現在、60歳代・70歳代となり、引退を考えるタイミングになっています。自分の調剤薬局を誰に引き継ぐのか、あるいは事業を継続させるかどうか自体を検討している方もいます。

調剤薬局市場は売上規模や運営店舗数などを見ると、大手企業による占有率が低く、小規模事業者が多数、存在しています。

大手チェーン店であれば定年を迎える店長がいたとしても、世代交代をして次の従業員へ店長を任せる人事異動での対応が可能です。しかし、店長=オーナー社長であることが多い小規模の調剤薬局では、事業承継を検討せざるを得ないというわけです。

以上のような背景と理由から、近年、調剤薬局市場でのM&Aが活発化している傾向にあります。


2.調剤薬局をM&Aする際に多い手法・ぶつかる問題

  1. 親族内承継
  2. 従業員承継
  3. 第三者承継(M&A)

それでは、選ばれやすいのはどのケースなのか考察してみましょう。

調剤薬局を開業しているオーナーは、まずは(1)の親族内承継で、自分の子供・親族への事業承継を希望することが多いと想定されます。「子供や親族に家業を継がせる」というスタイルは日本のビジネス習慣としてなじみのある事業承継の形でしょう。

しかし、調剤薬局の経営は一般的な企業とは少し異なる事情があります。それは、オーナーになるためには薬剤師の資格を保有し、薬剤師経験があることが望ましいという点です。

もちろん、薬剤師の資格がなくとも経営を行うことは可能ですが、薬剤師の資格を持っておらず現場経験が無いオーナーでは業界理解が不足しています。従業員の薬剤師も、安心して働くことができないかもしれません。

そのため、事業承継で後を引き継ぐ2代目は、自ら薬剤師の資格を取得し、薬剤の経験も経たほうが経営を円滑に進められる可能性が高いと言えます。

調剤薬局のオーナーは事業承継を検討する際、「自分の子供が薬剤師の資格を取得し、後を継いでくれるかどうか」の意思確認をまずは行わなければなりません。場合によっては、子供が薬剤師ではなく「医師になりたい」と考えることもありますし、異業種の仕事に就くことを希望する場合もあり、選択肢が1つ減ることになります。

子供が後を継ぐ意思がない場合には、(2)の従業員承継や(3)の 第三者承継(M&A)を選択して、従業員から後継者を探すかM&Aを検討しなければなりません。

オーナーが「親族が最も信頼できる後継者だ」と考えている場合には、親族以外の従業員の中から後継者を指名することは心情的にも難しくなり、従業員承継を成功させるのは困難であると言わざるを得ないでしょう。

さらに、薬剤師の視点と調剤薬局の経営者の視点は大きく異なります。薬剤師としての経験が豊富な従業員であっても、オーナーとして事業経営することは異なる能力が求められます。

従って、自分の子供や親族に事業承継ができない場合には、(2)の従業員承継ではなく、(3)の第三者承継(M&A)を検討することになる傾向があると考えられるのです。


3.調剤薬局M&Aで得られるメリット

調剤薬局のM&Aについて、売る側、買う側それぞれのメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

まず、売る側のメリットについて見てみましょう。

■事業承継問題の解決と経営者の事業からの引退

中小企業庁の発表資料によると、「中小企業の経営者の引退時期は68歳から69歳と推察され」(引用『2018年版「中小企業白書」』中小企業庁)ています。

調剤薬局のオーナーも同様とした場合、先に述べたように60歳代・70歳代となる多くのオーナーは現在、引退時期を迎えていると考えられます。M&Aを行うことで、希望通りに引退できることはメリットと言えるでしょう。

■売却による創業者利潤の確保と経営者の債務への個人保証の解消

M&Aにより得ることができる売却益によって、オーナーは老後資金を形成することが可能になります。

立派な店舗を構えている調剤薬局の場合、銀行から事業資金の融資を受けていることもあります。特に、オーナーが社長である場合には、融資に対して個人保証をしていることが多いものです。万が一、事業が立ち行かなくなった場合には個人資産で返済しなければなりません。売却益により、その個人保証が相殺できれば、資金面、心理面の両面から重荷を取り除くことができます。

■従業員の雇用の確保と大手傘下加入による経営の安定

オーナーや経営者にとって、共に心血を注いで事業に携わってきた従業員に対する雇用責任は、経営倫理にも関わる大きな課題です。

自分が引退するからといって、従業員に対して「解雇」を一方的に突き付けるわけにはいきません。従業員の雇用を確保し「従業員に幸せな人生を送って欲しい」と考えるのがほとんどでしょう。事業が安定している企業に売却することができれば、従業員の雇用を維持し、従業員満足度を満たすことができます。

次に、買う側のメリットについて見てみましょう。

■新規出店コストの節約

厚生労働省が発表している「厚生統計要覧(平成30年度)」によれば、現在、調剤薬局は全国で約59,000店超あります。業種が異なりますが、市場が飽和状態とされるコンビニエンスストア数は全国で約55,000店超あり(2019年度7月度現在)、調剤薬局はコンビニエンスストアよりも多い店舗数であることが分かります。そのため、病院に近いなど好立地での新規出店は難しく、飽和状態にあると言われています。

その一方で、薬剤師の転職市場は以前から売手市場と言われており、良い人材の確保が容易ではない現状があります。

こうした業界動向から調剤薬局の出店は、立地や人材獲得を含めたゼロからスタートすることが極めて難しい傾向にあります。

店舗が既に存在し、人材もそろっていることは新規出店コストの節約になります。スケールメリットを生かして事業拡大を目指している大手企業にとってM&A は、時間短縮が叶うことも大きなメリットと言えるでしょう。
岸田康雄さん 調剤薬局市場でのM&A


4.調剤薬局のM&Aフロー

調剤薬局業界では、どのようなフローでM&Aが行われることが多いのでしょうか?M&Aの流れを、事業承継を希望する売手の視点で順に見ていきましょう。

■事業承継の方向性とM&Aの意思決定

まず、引退するオーナーは、どのような事業承継を選択するのか、気持ちを固める必要があります。自分の子供に継がせたいのか、あるいは第三者によるM&A を行う必要があるのかを検討します。「M&Aを行うぞ!」という意思決定ができていなければ、動き出すことができません。

■M&Aの方針や課題の整理

気持ちが固まった後は、どのような方針でM&Aを行うのか、想定する売却価格、M&A を行うにあたって自社が解決しておかなければならない課題を整理します。あらかじめ解決すべき事柄がある場合は、当然、事前に解決しておく必要があります。

■買手へのアプローチ方法

続いて、買手を探します。買手を探す方法には主に次の3つがあります。

  • 業界の知り合いから探す

自店舗の近隣や、調剤薬局を経営している業界関係者の知り合いへ話をして、買手となってもらう方法です。

  • 銀行に相談する

メインバンクがある場合、売却先を紹介してもらえる場合があります。

  • M&A仲介会社に依頼する

近年、調剤薬局のM&A経験が豊富な仲介会社も増えています。M&A仲介会社へ依頼し、買手マッチングをしてもらう方法です。

■買手を決める方法

買手を探すことができたら、次の2つの方法いずれかで買手を決めます。

  • 「相対取引」

相対取引(あいたいとりひき)は、一般的には株式市場を介さないで売買する方法のことを指します。1対1で、売買方法や価格などを交渉することになります。

  • 「競争入札」

競争入札は、複数の買手候補を集めて、買手候補同士が入札を行い、最も良い条件を提示した買手を選択する方法です。

相対取引、競争入札どちらも一長一短があり、一概にどちらの方法が良いとは言えません。ケースバイケースで、状況に応じて買手を決める方法を検討するのが良いでしょう。

■買手による詳細調査

買手が決定した後は、買手側が事業の資産状況を調査します。これを「デューデリジェンス」と言います。

「この調剤薬局の売上や利益はどれくらいなのか」といった項目を中心に、月に処方箋をどのくらい扱っているのか、保険料収入はどのくらいかなど詳細に調査し、そこから買収価格を算定することになります。

買手は、M&Aによる投資を回収できるか、回収期間はどれくらいになるのかを重視します。例えば、年間1,000万円の投資回収が期待できる会社と2,000万円の投資回収が期待できる会社では、回収期間が倍も違ってきます。そのため、デューデリジェンスの結果次第で、買収価格は変わる場合があります。

特に、薬剤師との雇用関係(継続して勤務してくれるかどうか)や、法令違反がないかどうかについては慎重にチェックします。診療報酬に関する不正請求がないかなども、専門家による細かいチェックが入ることになります。

■条件交渉

デューデリジェンスが終わると、価格交渉です。買手が提示する価格と、売手の考える価格をすり合わせます。また、価格だけでなく、引き渡し後の従業員の雇用契約や、会社の将来についての希望や条件があれば、細かくすり合わせていきます。

■最終契約・代金受け渡し

条件交渉がまとまると、最終契約をし、代金の受け渡しを行います。

岸田康雄さん 調剤薬局市場でのM&A


5.調剤薬局のM&Aを成功させるためのポイント

売手から見て、調剤薬局の M&A を成功させるためのポイントや注意点には、次に挙げるようなものがあります。

■経営管理体制の整備

中小企業の場合、M&A を行う前の準備が非常に大切です。特に、経営管理体制を整備しておくことが肝要です。例えば、労務管理、財務管理、生産管理、品質管理、契約管理です。

また、違法行為や円滑な事業経営の障壁となる問題があれば、必ず事前に解消しておきましょう。中小企業のM&Aでは、経営管理体制の不備が問題となって交渉が破談になるケースは珍しくありません。実交渉に入った後で問題が発覚すると、交渉相手の心象を悪くし、関係性が悪化してしまう恐れがあります。

とはいえ、小さな問題を含めれば、どのような会社にも多かれ少なかれ問題はあるものです。デューデリジェンスよりも前の段階で、経営管理体制を整備して、障壁をクリアにしておくようにしましょう。

■オーナーが引退しても会社が機能する組織づくり

調剤薬局のM&Aでは、大手企業が買手となるケースがあります。その場合、大手企業は買収先の調剤薬局に、新たな店長として自社の人材を送り込むことも想定されます。

しかし、薬剤師の人材不足が叫ばれている昨今、大手企業内でも店長となる資質を持った人材育成が遅れている場合も考えられます。その結果、例えば、業界や薬剤師の業務への理解が不足している新店長が、既存スタッフとの間で軋轢を生じさせるかもしれません。

こうしたリスクを回避するため、オーナーが引退した後でも頼りになる“店舗のナンバー2”のような人材がいれば、既存スタッフをまとめ上げてくれ、円滑な店舗運営に寄与する可能性が高まります。このように、事前にオーナーがいなくても機能する組織づくりをしておけば、M&Aの成功へとつながります。

■M&Aについて告知するタイミング

M&A は、オーナーにとって大きな変革であると同時に、役員や一般の従業員にとっても大きな変化です。

M&A を行う際には、従業員に対してその目的やM&A後の雇用や職場環境について説明をし、従業員の不安を取り除いて安心して業務に集中できるよう留意する必要があります。告知のタイミングは、M&A 実施直前で問題ないと考えられます。

ケースバイケースではあるものの、主要な役員については一般の従業員とは異なり、事前に情報開示しておくのが望ましいでしょう。場合によっては、「長年、自社と競い合ってきた競合企業に買収されることへの反発」や、「自社の企業文化や経営方針と異なる買手への拒否反応」を示し、M&A 後も欠かせない役員や中堅社員が離反してしまう恐れもあります。十分に配慮した開示・説明方法を事前に検討することが大切です。

例えば、オーナーが「承継先は自社と同じ優れた会社で、将来の成長性にも期待ができる」と誠実に伝えて、M&Aの意図について納得をしてもらうことは極めて重要です。

■不動産の問題を考える

最後に、不動産の取り扱いに関する問題もあります。調剤薬局の店舗の土地・建物をオーナーが所有している場合には、その取り扱いについて決めておかなければなりません。

M&Aの買手は店舗の事業に価値を見い出しており、その土地・建物を購入したいと考えているとは限りません。不動産価値を含めたM&Aとなると、買収価格は大きく跳ね上がってしまう傾向にあります。不動産に関する最も多い解決策としては、土地・建物の不動産はM&A後もオーナーが引き続き所有し、買手側と賃貸借契約を結ぶ形をとることです。

M&A の対象となる調剤薬局の土地・建物をオーナーが所有している場合には、不動産の取り扱いについても留意する必要があることも念頭に置いておきましょう。

 


話者紹介

調剤薬局師のM&A 岸田康雄さんプロフィール

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公認会計士
岸田 康雄
一橋大学大学院修了後、監査法人にて会計監査および財務デューデリジェンス業務に従事。その後、金融機関に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と組織再編のアドバイスを行う。

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