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敵対的買収のメリット・デメリットとは?成功・失敗事例を解説

2020/07/20
更新日:2024/05/13

はじめに

海外では敵対的買収の事例は数多く確認されていますが、近年、日本でも増えつつあります。海外の投資ファンドが敵対的買収に踏み切ることも予想されるため、仕掛けられた会社は防衛策を予め準備しておく必要があります。

そこで敵対的買収やその対抗策、具体的な成功・失敗事例などについて、キャピタル・エヴォルヴァーの代表取締役である前垣内佐和子さんに詳しく話を聞きました。


1.敵対的買収の概要

簡単に言えば、敵対的買収とは買収ターゲットの会社の取締役会などから同意を得ることなく、対象会社の株式を取得し、買収を仕掛けることです。

(1)敵対的買収の目的

敵対的買収の目的は経営権の取得や経営の影響力の増加、また、転売で利ざやを稼ぐというものなどがあります。会社の株式を一定以上保有している株主は、保有割合に応じて様々な権利を得ることができます。例えば、発行済みの株式の所有割合が3分の1以上になると単独での株主総会の特別決議への拒否権が手に入り、また、所有割合が50%を越えると株主総会の普通決議を単独で可決することができます。特別決議の拒否権は強力であり、賛同者が多くてもその決議を覆すことが可能です。

さらに、所有割合が3分の2以上になるとなど株主総会の特別決議を単独で可決する権限を手に入れ、会社の決議事項の中でも特に重要な承認事項の決定をすることができます。具体的には、会社役員の解任などの経営陣の変更、株式や新株予約権の発行、重要な事業の譲渡など会社の基盤となる要素の変更などです。

(2)敵対的買収のルール

一定の条件に該当する場合は、証券取引所に上場している会社や有価証券報告書の提出義務を負う会社の有価証券(株券、新株予約権証券、投資証券など)を、一定以上購入する際、公開買付(TOB)を行う必要があります。

TOBとはTake-Over Bitの略称で、公開買付を意味します。具体的には、不特定かつ多数の者に対して公告を使って価格や株式数、株式を購入する期間など買付内容を宣言し、証券取引所を通さずに有価証券市場外で株式の買付をするという申し込みや勧誘を行うことです。

TOBが適用される条件は金融商品取引法に記載されています。ルールがいろいろとあり非常に細かいので説明を省きますが、基本的には株式等を購入した結果、所有割合が3分の1以上になる場合は、ルールに則って買付の意思を公表する必要があります。(取得後の所有割合が5%超になる時も、場合によってはTOBが必要になります。)

敵対的買収を実行するにはある程度の株式を買い集める必要があります。そのため敵対的買収を実行しようとすると、自然とTOBのルールに抵触するのです。未上場会社の大部分は、有価証券報告書の提出義務がないため、これらの株式等を取得する際、TOBは不要になりますが、敵対的買収などで上場会社の株式を一定数以上取得しようとするとTOBが必要になってきます。

2.敵対的買収のメリット

メリット
敵対的買収において、買手側のメリットは3点挙げられます。

(1)過小評価されていた会社の価値を高める

買収したい会社から経営陣を追い出して自分たちで会社の効率化を行えば、それまで過小評価されていた会社の価値が正常、あるいはそれ以上まで引き上げられる可能性が高いというのが、敵対的買収のメリットでしょう。ただ日本で敵対的買収をするメリットがあるのかと尋ねられると、対象会社の経営陣・従業員からの反発も多く、逆に対象会社の価値が毀損されることもあり、正直なところよくわからないという意見も多いです。

(2)株価が跳ね上がることによる利益の享受

株価に関しては、テクニカルなメリットがあります。2019年に旅行大手のHISが、ビジネスホテル事業を展開するユニゾHDのTOBを実施した件が話題になりました。この事案でどこが一番メリットを享受したかというと、最初に敵対的買収を仕掛けたHISです。TOBによりユニゾHDが「この評価額では売らない」となった結果、ユニゾHDの株価がどんどん上がっていきました。HISは株を買い集めていましたが、アメリカの投資会社であるフォートレスなど、HISを上回る買付価格で敵対的買収を行おうとする会社が次々と現れ、株価がどんどん上がっていきました、HISによる買収提案前は2000円を割り込んでいた株価は最後には6000円にまでつり上がりました。HISは結局TOBから撤退しましたが、最初に買い集めた株価がグンと上がり続けたため、結果的にはHISは29億円の利益を得ることができました。

別会社が敵対的買収を仕掛けるのを見込むというのは非常にリスクがありますが、このように株価が跳ね上がる可能性がある可能性もあるということです。そこまで織り込み済みなら驚きですが、HISは別会社による敵対的買収及びここまでの株価の上昇を見込んではいなかったでしょう。株価暴騰による利益を享受できたという意味で、副次的なメリットを得られた事例です。

3.敵対的買収のデメリット

TOBでは、募集する株式数に上限・下限を設けることができます。例えば発行済株式数の50%超の株式を取得したい場合、51%を下限株式数としたTOBを開始することができます。その際、申込が発行済株式数の50%しか行われなかった場合、TOB不成立となります。ただ、その場合でも、証券会社やアドバイザリー会社に報酬を支払う必要があり、その他、公告費、印刷費などのコストも発生します。対象会社の経営陣や筆頭株主に協力してもらいTOBを進めたほうが、対象会社による買収防衛策などにより不成立になるリスクは大幅に軽減されますので、可能な限り、友好的買収をするための調整を行ったほうが良いです。

また、株の買い増しを強引に進めていったことで、従業員のモチベーションが落ちてしまった等、元の経営陣が会社から離れた結果、買収した会社を運営できないのであれば、その会社の経営が厳しくなることでしょう。そのほかにも、敵対的買収を仕掛けられた会社やその経営陣に恨まれ、遺恨が生じることもデメリットとして挙げられます。

4.どんな会社が敵対的買収を仕掛けられるのか?

敵対的買収の標的となる会社は、基本的には、株価が割安なところです。また、筆頭株主の持株比率が低い場合も、TOBによって株を買い集めやすいでしょう。対象会社やその経営陣やオーナーなどが株の大多数を保有していれば、浮動株が少ないので標的になりにくいです。

その中でも、会社が独自のコンテンツ、技術、特許等をもっている場合は、活用したい企業からすると魅力的なので買収したいと考えるでしょう。標的になりやすい会社にもかかわらず買収防衛策を講じていない会社が、敵対的買収のターゲットになります。

5.敵対的買収の予防策や対抗策

敵対的買収をされないように防衛するには、株主構成が重要になります。敵対的買収があったときに協力してくれる会社を確保することも大切です。現在、日本で一番多く実施されている敵対的買収の対抗策は、株主の安定化です。ホワイトナイトやゴールデンパラシュートなどもあります。

買収防衛策は、基本的に2つに大別されます。

(1)予防策

日本で頻繁に実施されているのが株主の安定化でしょう。たとえば取引先に株を保有してもらう、ほかの会社と株の持ち合いをする、従業員に自社株を保有してもらうなどという方法がとられています。敵対的買収を仕掛けられても、それに応じない仲間を作って株を保有することが重要です。

(2)対抗策

敵対的買収をされた場合の対抗策をいくつか挙げます。

①ホワイトナイト

定款の設定が事前に行われてなくても、買収者が現れてから対抗措置を取ることが可能な方法です。ホワイトナイトでは、自社に友好的である比較的資金力のある会社に依頼し、敵対的買収を仕掛けられたTOBよりも高い金額で買収を阻止してもらうことです。ただし、自社が他社の傘下に入ることには変わらない点に注意が必要です。

②ポイズンピル

元の株主にあらかじめ新株予約権などを付与しておくなど、敵対的買収者以外だけが行使できるオプションを付与してき、敵対的買収が起こった際、敵対的買収者以外の既存株主が当該オプションを行使することで、敵対的買収者の持ち株を低下させたり、買収コストを増加させたりすることで買収のハードルをあげる方法です。事前警告型の防衛策にもなります。

このほかにも敵対的買収者に逆に買収を仕掛けるパックマンディフェンスや、買収したがっている資産や事業を第三者に渡し、敵対的買収者の買収意欲をなくさせるクラウンジュエルなどが対抗策として挙げられます。対抗策はいろいろとありますが、多くの事例がアメリカです。

日本ではなかなか対抗策のケースがないのが実態です。ユニゾHDのケースでは、ユニゾの従業員らと米投資ファンドのローンスターが新会社を設立し、買い付け資金をローンスターに支援してもらい、他の投資ファンドなどと争奪戦を行いながらTOBを成功させたという事例があります。このケースはホワイトナイトと呼べるかもしれません。

6.敵対的買収の事例

敵対的買収の想像図
数は多くありませんが、敵対的買収の事例は日本でも現れつつあります。

何をもって敵対的買収が成功か失敗かを判断するのかは難しいですが、会社の価値が買収後にどう変化したかがひとつの指標になるでしょう。買収を仕掛けた会社が目的を達成できれば一旦は成功です。それで経済的利益が出たら買収者にとって本当の成功だといえます。ただ社会全体を考慮した場合にその買収が成功か失敗かどうかはわかりません。

(1)失敗事例

①ブルドックソース事件

日本で買収防衛策を初めて発動させたのが2007年のブルドックソース事件です。アメリカのヘッジファンドであるスティール・パートナーズがブルドックソースにTOBを仕掛けると発表しました。ブルドックソースの経営陣は反発し、株主総会で導入が承認されたばかりの買収防衛策を実行に移したのです。これにより、スティール・パートナーズの持株比率が引き下げられました。

スティール・パートナーズは同年に静岡県の工具メーカーの天龍製鋸にもTOBを仕掛けましたが、こちらも失敗に終わっています。

②コクヨによるぺんてるへの敵対的買収

最近では、筆記具業界第1位のコクヨが第4位のぺんてるを買収しようとしたケースが、敵対的買収の失敗事例として挙げられるでしょう。ぺんてるの創業家一族が持分の株式を投資ファンドに売却し、この投資ファンドがぺんてるの筆頭株主になったことが始まりでした。

ぺんてる社内では、創業家である3代目と経営陣とのあいだにトラブルがあり、役員が社長を解任しました。解任された社長は創業家が保有していた株式を投資ファンドに売却してしまいます。コクヨは、その投資ファンドに出資することで、ぺんてるの株を間接保有しました。知らないうちにコクヨがぺんてるの37%の株式を保有するという事態になってしまったのです。その後、業務提携に向けた協議など行いコクヨは当該投資ファンドから株式を取得し、直接保有に切り替えましたが、結局、ぺんてるは業界第2位のプラスに助けを求め、プラスがホワイトナイトとして介入しました。

(2)成功事例

DRCキャピタルがコージツ(登山用品の好日山荘の持株会社)を完全子会社化したのは、成功事例だといわれています。

また、2017年に佐々木ベジ氏がソレキアに対して実行した敵対的買収も成功事例といえるでしょう。

(3)成功と失敗、どちらが多い?

2018年にグリーンエネルギー事業を行う日本アジアグループが住宅メーカーのサンヨーホームズに仕掛けたケースや、旧村上ファンド出身者が運営する投資ファンド・エフィッシモ・キャピタル・マネージメントがセゾン情報システムズに対しTOBを仕掛けたケースなど、成功したと呼ばれる事例はいくつかあります。しかし敵対的買収は、失敗したケースのほうが多いです。アメリカの投資ファンド・サーベラスが西武HDに仕掛けたTOBやライブドアがニッポン放送に仕掛けたものなど、有名な失敗事例も多く挙げられます。

上述の「株主が安定している」という点以外にも日本で敵対的買収が成功しにくい要因はいくつかあります。

株式をTOBの対価として使えないため買収には現金が必要であり、資金的な事情から一定の規模の会社までしか買収ができないこと、また、従業員を簡単に解雇できないため、買収後のドラスティックな再生が難しく、従業員のモチベーションに業績が影響されるためリスクが高く、そのリスクを考慮した金額までしかTOBプレミアムをつけられないことなどが挙げられます。

そして、日本は経営業務を専門とする方が経営をする欧米とは異なり、経営者は一般の従業員の延長であることが多く、経営陣を入れ替えることは、日本では従業員が大きな抵抗を示すという背景があります。労働組合の力も強いため、労働組合と経営陣が一体化して抵抗をしてくるとスムーズに敵対的買収を行うことができないわけです。

7.まとめ

日本の環境が敵対的買収に不向きな環境である上、最近は、買収されないように防衛策を講じている企業が多いので、敵対的買収は非常にハードルが高いです。TOBを行う際には、現在の株価に一定のプレミアムがつくのが一般的です。状況や時期にもよりけりですが、株価の150パーセントや170パーセントなど、市場価格よりも高く株式を買うことになります。場合によっては300パーセントということもありますが、株価が下がってしまえば損をする可能性もあります。

また、買収先の従業員から猛反発されると、今後の会社運営に不安を残すこととなり、会社の価値や株価への影響も出てくるでしょう。敵対的買収をしようと仕掛けたのちに友好的買収にチェンジできればいいですが、相手が反対している状況では転換は難しいと言えます。敵対的買収に成功する秘訣は、敵対的買収を仕掛ける会社の状況を調査し把握することにつきるのではないでしょうか。

話者紹介

前垣内佐和子氏

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キャピタル・エヴォルヴァー株式会社
代表取締役 前垣内 佐和子

大学時代、外資系の投資銀行でM&Aアドバイザリー業務の一端を初めて経験してから、東証一部上場会社の経営企画部やM&A専門ファームで経験を積み、キャピタル・エヴォルヴァー株式会社を立ち上げる。同社は既に12年目となり800社以上もの顧客を抱える実績と勢いのある企業となっている。

2019年にはThe N.Y. Timesで新しい時代のアジアのリーダーとして選出され、また、世界的な週刊誌のNewsweek(2019年)にも掲載され、今最も注目されているM&Aアドバイザーの1人である。

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