TOB(株式公開買付)とは?メリット&デメリットや敵対的TOBを具体的に解説
はじめに
経済ニュースで時折話題に上がる「TOB(株式公開買付)」。とりわけ「敵対的TOB」が注目を浴びることが多いのは周知のとおりです。一昔前にはライブドアとフジテレビの間でも騒動になったこのTOB、「株式公開買付」とは一体どのようなものでしょうか。
株式投資をしている人たちでも、意外に具体的なことを知っている人は少ないようです。そこで今回は、TOBの事情に詳しい、株式会社iSGSインベストメントワークスの五嶋さんにお話を伺いました。
1.そもそもTOBとは何か?
TOBは「Take Over Bid」の略称で、株式公開買付のことを指します。
TOBというワードに対して、みなさんはどのようなイメージを持っているのでしょう。実のところTOBというのは、あくまでも株式公開買付という「手続き」の呼称です。マーケットにおける投資戦略や、特殊な戦法のイメージがありますが、そういうわけではありません。
(1)TOBとは
TOBとは、ある会社の株を株式市場外で一定の割合以上買い集めることをいいます。
法律的には、有価証券報告書の届出義務がある株式会社の株を一定の割合以上買い集めるときに、届出を出さなければなりません。その手続きや行為自体をTOBと呼んでいます。
実は上場しているかどうかが基準ではないので、上場企業でなくともTOBはありえます。具体的には株主が50人以上いると、上場か非上場かにかかわらず、有価証券報告書の届出義務が発生します。その有価証券報告書提出会社の株式を10名以上から60日間で5%以上買い集める場合、または60日間で1/3以上の株式を10名以内から買い集める場合などに、TOBという手続きが必要になります。
例えば、非上場であっても従業員持株会がある会社などで、退職した従業員個人に株を渡しているケースなど、非上場でも株主が50人を超えることは多々あります。そのような会社は有価証券報告書の届出義務が発生していて、既に届出を行なっていますから、株式のほとんどを所有するオーナーであってもその会社を売却するときにはTOBの手続きを踏む必要があります。
(2)組織再編を目的としたTOB
ルール上は5%以上、あるいは1/3以上の株式を取得するだけなので、本来は必ずしも経営権の移動が伴うものではありません。実際に上場企業で行われるTOBでは、連結会計上の持分法適用会社となる20%超の取得によるグループ化を目指すTOBも多くあります。
他に多く見られるのは組織再編を目的としたTOBです。パナソニックグループが三洋電機やパナソニック電工などの上場しているグループ会社群をTOBによって非上場会社にして、ホールデディングスにまとめてしまうようなこともあります。
もちろん、TOBが必ずしも非上場化を伴うものでもありませんが、特定の株主が一定の持ち株割合を超えると上場を維持できなくなるというルールが株式市場にはあるので、結果的に非上場になることも多いのです。株式市場では東証本則市場、ジャスダック、マザーズで、それぞれ上場廃止となる株式比率の割合が決まっています。
TOBの目的が上場廃止なのであれば、その割合を超えるだけ株式を取得すればよいのです。そうするとルールに則って自動的に上場廃止となります。
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2.TOBの流れ
TOBの具体的な流れを説明します。
(1)公開買付開始の公告と公開買付届出書の提出
買手は会社の情報およびTOBを行なう目的、価格などを公告します。また、内閣総理大臣に対して公開買付届出書と必要書類提出が必要です。届出書に記載するのは、買付価格や買付予定の株式数などです。提出をもって公開買付期間が開始となります。
(2)意見表明報告書の提出と回答
既存株主である売手は内閣総理大臣に、10営業日以内に「意見表明報告書」を提出しなければなりません。報告書には、TOBに対しての意見、買手に対する質問なども記載します。買手は5営業日以内に内閣総理大臣に、所定の回答報告書に質問への回答を記載して提出します。
(3)公開買付報告書の提出
公開買付の期間は20〜60営業日とされており、期限の翌日に買手は公開買付報告書を提出してTOBの結果を内閣総理大臣に報告して手続きは完了します。このタイミングで買手が総議決権の過半数を持っていれば、会社の経営権を取得したことになります。
(4)公開買付撤回届出書の開示
手続きの途中で公開買付を撤回したい時は外部に「公開買付撤回届出書」を開示する必要があります。届出書ではTOBを取りやめる理由を、投資家保護の観点からを陳述しておかなければなりません。
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3.敵対的TOBとは何か?
TOBというと敵対的TOBのイメージが強いのですが、実際は友好的なTOBのほうが圧倒的に多いです。なぜ敵対的TOBのイメージが強くなるかというと、やはり敵対的TOBは、従業員や取引先、顧客など、影響を受けるかもしれない関係者も非常に多いので、メディアにとっても話題性がありクローズアップされやすいからです。
(1)敵対的TOBとは
前述した通り、メディアにおいて話題になりやすいのは敵対的TOBです。2019年3月、伊藤忠商事によるデサントに対する敵対的TOBが成功しました。成功といっても手続き的に成功しただけで、今後経営がうまくいくかどうかはまた別の話です。
「敵対的」というのは、具体的にはTOBされる側の企業の取締役会が反対の意見表明をしているにもかかわらず、TOBを強行することです。TOBの意向は、その会社の取締役会にも届けられます。そして取締役会は、株主や株式市場に対して、そのTOBに対して賛成か反対か、あるいは中立といった意見を表明することができます。
その中で明確に反対という意見表明が出ているにもかかわらず、TOBを実施するものを「敵対的TOB」と呼びます。取締役会が反対しても、買付を決行できてしまうのはなぜでしょうか。それは、そのTOBを実行することが良いか悪いかを決めるのは、TOBを実施する者でもなく、取締役会でもなく、株主だからです。
(2)株主は基本的には利益が見込める方を選ぶ
TOBを仕掛ける側としては、たとえば現在の経営陣に任していても将来の躍進は見込めないと主張し、自分たちが舵取りをすることで会社を発展させるから株を売ってくれという論法を用います。
また、現在の株価よりもずっと高い株価で買うから、と勧誘する場合もあります。このまま持っていても儲からないでしょう、我々が高く買うから売ってください、というアプローチもあるのです。
一方、現経営陣は自分たちに経営を続けさせてくれたら必ず事業を伸ばすことができるので、あのような連中に売らないでくれと説得しようとします。敵対的TOBではそういった攻防の果てに結果が出ます。
特に上場企業の株主は、原則的には経済的な利益を目的として株式を保有しているのであって会社への愛着などは基本的にはありません。その株主たちに対してより利益がでる、または期待できる提案ができるかということです。
TOBが成立したら、経営陣はどうなるのでしょう。敵対的TOBは経営権の獲得が目的ですから、少なくとも50%を超える株式の取得を目指す場合がほとんどで、そうなればTOBを成功した側が会社の経営に関する重要事項の多くを株主総会で決定できることになり、それには取締役の選任が含まれます。敵対的TOBの多くは現経営陣の経営を否定して行われるので、経営陣の多くが交代となるケースがほとんどです。
(3)敵対的TOBの成功率が意外と低い理由
敵対的TOBは成功の確率が意外と低いものです。「TOBの成功」には2つの段階があり、一つはまずTOBという買収手続そのものを成功させられるか、という点。もう一つは買収後に企業経営に成功しTOB前より企業価値を大きく高められるか、という点です。後者の方が本質的と言えます。
まず買収手続については、現経営陣が敵対的TOBに対抗するために他の投資家を連れてきて友好的TOBを開始する場合もあります。
例えば、オリジン弁当のオリジン東秀がドンキホーテからの敵対的TOBを阻止するために、イオンに対抗TOBを要請したケースではイオンのTOBが成功しました。
また、文房具大手のぺんてる(非上場)に対してコクヨがTOB発表し、事務機器大手のプラスがぺんてるからの要請で対抗TOBを表明したケースもプラスがTOB成功しました。
TOBを発表することで他の投資家もTOBを宣言して買収合戦に発展してしまう場合もあります。最近では東芝が子会社であるニューフレアをTOBによる完全子会社化を発表したところにHOYAが対抗TOBを表明、最終的には東芝によるTOBが成立しました。
敵対的TOBを仕掛けられる企業は経営陣が批判されるケースが多いですが、現経営陣を批判して敵対的TOBを仕掛けている側も、そもそもプレミアム価格を株価に上乗せして買収しても儲かる、という判断ができるから敵対的TOBに踏み切っているわけです。
TOBの対象会社に魅力的な資産や商品、顧客がいて、かつ株価が割安である、という判断があってのTOBなのです。そのため当然救済や対抗が現れる可能性はありますし、むしろそのためにTOBというルールがあるのです。
さらに経済合理性もなく事業上のメリットも薄い中で長期間株式を保有し続けている「安定株主」と呼ばれるような存在もいまだ残っている企業もあり、その人たちはよほどの高値でないと動かすことはできません。
また、敵対的TOBの場合、買手はもちろん敵対的立場なので、対象会社の深い情報を得るためのデューデリジェンスができず、基本的には公開されている情報から様々な判断をしなければなりません。
各種調査機関を使って調べることである程度わかることはあるかもしれませんが、基本的には有価証券報告書をはじめとする開示情報や各種報道などの公開情報、関係者からのヒアリングなどからの情報を元に買収を決めなければなりません。
乏しい情報から判断して買ってみたけれど、当初の期待ほどよい買収ではなかったということもあります。TOBは多くの場合、市場の株価に20%〜50%のプレミアムを上乗せして株を買い集めるので、業績が多少改善しても、投資対効果としては失敗、ということもあります。また、買収されたことで会社を辞めていく人材もいて、経営そのものがうまくいかないケースも多々あります。
(4)売らないという選択肢
TOBにおいて、株主は「売らない」という選択肢ももちろん選べます。TOB後も上場を維持するケースや、TOBが成立しないケースもいくらでもあります。しかし、買手が株式の100%買収による完全子会社化目指してTOBを行って一定以上の株を所有した場合、ほかの株主は「スクイーズアウト」という手続きがなされ、強制的に株式を売却することになります。
それならいさぎよく、すぐに手放しておいた方が利益も出るだろう、損も少ないだろう、ということで手放すことも多いのです。
ごく一部の株主の抵抗があったり、上場企業ではTOB開始を知らない株主がいたり、手続き忘れていた、のようなケースもありえます。ごく一部の株主によってM&Aが成立しないなどとなれば、TOBに賛同している大多数の株主の利益を損なうことになりますから、そのような事態を避け、M&Aが推進されるよう、スクイーズアウトというルールがあるのです。
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4.TOBの買収防衛策は?
敵対的TOBに対抗するための買収防衛策として、かつては新株や新株予約権を大量に発行して、議決権比率の分母を増やす方法を取るケースもありました。TOBをいくら仕掛けても、株の占有率が上がらないようにするわけです。しかし当然これは既存株主が保有する株式の価値を大きく毀損する手法なので、現在のルールでは許されていません。
TOBを予防するためのいわゆる「買収防衛策」は、既存株主の保有する株式の価値や権利を毀損するような手法が多く、現在では積極的に採り入れている企業はほとんどありませんし、買収防衛策を採用していた企業も、廃止する企業が多いようです。
敵対的TOBを仕掛けられること自体を企業には防ぐことはできませんから、敵対的TOBを宣言された際に検討できる「対抗策」は、買手に対抗できる資金力のあるパートナーを連れてこられるかどうかです。自分たちの経営を応援してくれる投資家を味方につけて、株を保有してもらうのが妥当な防衛策です。
敵対的TOBから企業を守る、つまり敵対的TOBのターゲットにならないために、最も大切でかつ唯一の「防衛策」は、株主や従業員、取引先、なにより顧客に向き合った長期的な成長戦略に基づいた経営を続けること、透明性が高い情報開示・IRを継続すること、そしてこれにより企業価値、株価を上昇させ続けることです。
「割安」「経営陣を交代すればもっと成長する」といった敵対的TOBの対象になりやすい評価をされる企業でなく、将来の成長可能性の高さに見合った高い株価と、それを実現する経営陣、それをステークホルダーに知っていただくためのIR、こういった経営を実現し続けることで、自分たちに賛同してくれるステークホルダーや株主を増やす、経営の「王道」といってよいアプローチが、現代の買収防衛のあり方なのです。
5.TOBの過去の事例
2018年10月にはサイバーエージェント出身の西條氏とユナイテッド出身の手嶋氏が設立したXtech株式会社が、伊藤忠商事の子会社でネット広告や通信サービスを扱うエキサイト株式会社に対するTOBを実行し、成立しました。これは友好的なTOBでした。
レンタルビデオショップ最大手の「TSUTAYA」等を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社は自らをTOBするMBO(マネジメント・バイアウト/経営陣による自社買収)により上場を廃止しています。
アパレル大手で「UNTITLED」「TAKEO KIKUCHI」「ITS’DEMO」などを展開する株式会社ワールドは、2005年に市場から自社株を買い集めて非上場化し、2018年に再上場しています。
会社の現状や目標達成のために成すべきことを検討した結果、上場しているメリットより非上場であるメリットが大きい、あるいは上場しているデメリットが大きい、という判断の結果であり、経営戦略において上場するメリットが大きいと判断すれば再上場もありえるということです。
両社とも業界自体が再編される時期にあり、変化しなければいけない時代に入っています。リストラをしなければならない、ブランディングを仕切り直さなければならない、新業態にチャレンジしなければならないという課題に直面しているのです。
そういう課題に必死で取り組んでいても、短期的な業績がマイナスに振れることで株価が低迷し、上場企業の最大のメリットである機動的な資金調達やM&Aができなくなる可能性がありますし、株主総会や決算報告における株主への説明責任もあります。東証や証券会社、信託銀行への支払いや株主総会の開催、各種IRなど様々な上場維持コストも必要です。
上場企業であり続けることで、資金調達やM&A手段の多様性と機動性を得られ、社会的な信用や知名度が向上するといった様々なメリットがあります。一方で、上場しているということは「だれでも株主になってよい」ということであり、それには大きな義務や責任、費用が発生するのです。そのためにあえて非上場化を選択するというケースがあります。
6.まとめ
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「TOB」は、手続きや行為に過ぎません。やりたいことを実現するために必要なルール上の取り決めであって、TOB自体に投資の本質、経営の本質はないのです。言葉のイメージほど意味が深いものではありません。
TOBというルールで重要なのは、すべての株主に正しい情報が与えられ、株主一人ひとりに判断する情報と機会を提供することです。
〈話者紹介〉
五嶋一人(ごしまかずひと)
株式会社iSGSインベストメントワークス 代表取締役 / 代表パートナー
銀行での法人融資を担当後、大手ベンチャーキャピタルで投資先企業の発掘・ファンド管理業務、事業子会社の立ち上げ等に従事。2006年、株式会社ディー・エヌ・エー入社。同社の投資及びM&A責任者として、株式会社横浜DeNAベイスターズを始め、多数の投資・買収等を主導。2014年、株式会社コロプラ入社後もべンチャー投資及びM&A等に従事。同社での主な投資実績は、ランサーズ株式会社等。2016年6月、株式会社iSGSインベストメントワークスを設立、代表取締役 代表パートナーに就任。
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