技術者やエンジニアの派遣会社におけるM&Aの手法やメリット、成功のポイントを解説
はじめに
技術者・エンジニアの人材不足は深刻な問題となっており、優秀な人材は引く手あまたの状態です。優秀な人材を確保するために、派遣会社ごとM&Aを行うケースもあるほどです。
今回は、そんな技術者・エンジニア派遣会社の業界動向とM&Aの売却・買収事例、そしてM&Aを行う際のポイントと注意点をPMAパートナーズの加藤さんに伺いました。
目次
1.技術者・エンジニア派遣会社の業界動向とは?
まずは、技術者・エンジニア派遣会社の現在の業界動向について解説します。
(1)技術者・エンジニア派遣会社とはどのような会社?
人材派遣会社のなかでも技術者・エンジニア派遣会社は、技術者やエンジニアのような特定の技術を持つ人材を、IT関連、産業機器業界、製造業、建設業、農業等の技術力が重要な業界を中心に派遣しています。
技術者・エンジニア派遣会社は、派遣先の業界が成長していることも多く有望な業界の一つになります。
(2)技術者・エンジニア業界の現状と動向
平成27年に労働者派遣法が改正されました。「派遣」とはいうものの、業務委託に代わりつつあるのが現状で、大手メーカーでも契約形態を業務委託へ変更しているのが実態です。労働者派遣法の変更により、契約形態も変わりつつあるといえます。
昨今は、技術者がなかなか集まらないという問題を抱えています。中途採用で経験豊富な人材を採用すると、雇用にかかる費用が高くなってしまうため、意欲のある20~30代の若い未経験者を採用して、人材を教育する企業が増えています。即戦力が重視される世界ではありますが、実際は即戦力となる人材が少ないので、自分で育てるしかないのが現状です。
また、この業界では、技術のある人がフリーランスに転向するケースも多く見られます。直接契約で働けば中間マージンを取られる必要がないので、フリーランスを選択するのです。実際にフリーランスに転向した技術者やエンジニアはたくさんいます。
技術者・エンジニアの技術は細分化してきており、特化した分野では売手市場と言ってもいいでしょう。現在、古いレガシーシステムから新しい基幹システムへの移行が進まないという問題が発生しています。新旧両方の内部システムやプログラムを知っていなければ、移行はできません。しかし、両方を知っている人材が少ないため、アジャイルでやるか、流動的な組織を立ち上げるしかないというケースもあります。このようなシステムを知っている人材は独立していることが多く、派遣先へ行くこともありません。行くとしても、スポット的に高額な報酬で手伝うことが多いです。
2.技術者・エンジニア派遣会社におけるM&Aとは
派遣会社のM&Aは、頻繁にあるケースです。一度に多くの人材を獲得できるため、派遣会社を欲しがる企業も多いのです。ここでは、技術者・エンジニア派遣会社でのM&Aの手法やメリットを紹介します。
(1)技術者・エンジニア派遣会社業界で多いM&Aの手法
技術者・エンジニア派遣会社のM&Aでは、派遣先企業が派遣会社を買収するケースが多く見られます。「技術」を手元に置いておきたいというのが買収する理由です。例えば大手電機メーカーでも、派遣会社や技術者・エンジニアがいる部署がなくなると、仕事が回らなくなります。それならば、派遣会社ごと買収するという方法をとるのです。
技術者・エンジニア派遣会社の価値は、「一人いくら」というように、人材の価値で左右されます。エンジニアをどの程度抱えているかがポイントとなり値段をつけられるという点が、他の業界との大きな違いでしょう。
しかし、売手側の技術者やエンジニアからのM&Aへの評価は、両極端になるケースが多いです。M&A後に大手の看板を使って仕事を続けていけば収入が安定しやすく、どんどん昇格して年収がアップする人もいます。「M&Aは収入安定・アップのチャンスがある」とポジティブに考える人もいますが、これまでより多くの場所へ派遣され、場合によっては転居を伴うこともある点をネガティブに捉える人もいるのです。
3.技術者・エンジニア派遣会社におけるM&Aのメリットとは?
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
人材が不足しており、高い技術を持つ人材が重宝される技術者・エンジニア業界ですが、派遣会社のM&Aにはどのようなメリットがあるのでしょうか。売手・買手側それぞれのメリットを見ていきましょう。
(1)売却・譲渡企業側のメリット
売却や譲渡をする企業側にとっては、収入が安定するという点、雇用を確保できるという点が大きなメリットでしょう。また、技術者・エンジニア派遣会社の多くは、経営が厳しいところも少なくありません。そこで資本力の高い企業へ売却や譲渡をすれば、収入のみならず経営そのものの安定も期待できるでしょう。
経営に問題がないという派遣会社でも、後継者不足や不在という問題を抱える企業も多いです。このような後継者問題も、売却や譲渡をすることで解決するでしょう。売却益または譲渡益を得られ、さらに個人保証や担保、債務を解消できるメリットもあります。
(2)買収企業側のメリット
買収する側の企業の最大のメリットは、優秀な人材を確保できることです。貴重なエンジニアを獲得することで、外注費が減りコスト削減につながります。先述のように、技術者・エンジニアの技術は細分化されています。人材を確保できれば専門分野を拡大し、さらなる事業の拡大と収益の向上が期待できるのです。
技術者やエンジニアは、建築業界の職人集団のように人材がそのまま価値となり、人材価値に値段がつけられます。優れた技術を持つ人材には高値がつきますが、途中で離職してしまうリスクがあることから、一からの人材育成にたどり着きます。60代のシニア層がいる企業なら、人材育成に携わってもらうことによりモチベーションが上がり、企業としても良い循環になるでしょう。
なかなか人材が集まらないという問題を抱えている派遣業界では、優秀な人材は奪い合いの状態です。ライバル企業と協業すれば、人材の奪い合いをすることなく、会社の成長と業界内で規模拡大を狙えます。
4.技術者・エンジニア派遣会社でM&Aを行う際の流れ
技術者・エンジニア派遣会社でのM&Aは、他業種におけるM&Aとさほど大きな違いはありません。基本的に、以下のような流れで進められます。
(1)譲渡企業側が行うこと
M&A仲介会社を選定し、事前相談や契約手続きを行います。正式に契約締結をしてアドバイザーが就任した後は、自社についての資料を作成します。M&Aは必要な契約や書類が非常に多いため、必ず資料を揃えてアドバイザーなどの専門家のチェックが必要です。この際に用意する資料は、商業登記簿謄本などの会社の基本的な資料に加え、財務関係の資料や人事資料、契約関連の書類なども含まれます。そしてM&Aによるシナジー効果を引き出すため、または買手企業を探す際に利用するために、自社の分析や業界調査も必要です。
続いて、買手企業の選定作業です。まず、リストアップを行い条件に合う企業を絞り込みます。この時点ではまだ会社の詳細情報は伝えず、「ノンネームシート」と呼ばれる匿名の企業概要のみが買手候補の企業に渡ります。交渉に対して手応えがあった企業にのみ、譲渡する企業の情報を開示し、企業名を開示する「ネームクリア」が実施されます。このような流れを作ることで、交渉段階で不必要にM&Aの情報が広まることを防いでいるのです。
そして、売手・買手双方のトップが面談を行い本格的な交渉がスタートします。意向証明書や基本合意書を締結した後、最終譲渡契約書を締結してからPMIを実施します。
(2)買収企業側が行うこと
買収する企業側でも、買収相手を探すためにM&A仲介会社へ依頼をするのは、譲渡側と同様です。基本的に、企業や経営者自身で買収する企業を探す会社は多くないでしょう。
買収側として重要となるのは、デューデリジェンスです。M&Aでは、企業ごと譲り受ける形となるため、M&A前に売手側が多額の借金があることを伏せていた場合、買収後にその借金をすべて負うこととなります。そのような不利な状況を事前に回避するため、弁護士や公認会計士へ依頼をして買収する企業の調査を行います。
デューデリジェンスの結果を含め、M&Aをすることに問題がない場合、最終譲渡契約書の締結へ進みます。すべての手続きが完了することを意味する「クロージング」後は、マスコミなどへM&Aを公表するというのが、一連の流れです。
5.技術者・エンジニア派遣会社で実際に行われたM&Aの事例を紹介
頻繁にM&Aが行われる技術者・エンジニア派遣会社ですが、実際には以下のようなM&A事例があります。
(1)人材確保や技術力強化が得られた事例が見られる
技術者・エンジニア派遣会社のM&Aでは、エンジニアの安定確保による事業拡大や人材育成、技術力強化という結果を得られた事例が多く見られます。
ある電機メーカーでは、特殊技術を持つ派遣集団25、6名のうち、20名をパテントとともに大手一部上場企業へ売却した例があります。このケースは事業譲渡という形で、買収額は一人あたりの金額で換算されました。
その他にも、世界中にマーケットがるゲーム業界では、特化した技術を持った日本の企業を中国の企業が買収した例もあります。専門的な技術があれば希少性が高くなり、競争者が少ないのでこのような成功例となったのでしょう。
6.技術者・エンジニア派遣会社のM&A成功のポイント
技術者やエンジニアを抱える派遣会社のM&Aでは、やはり人材の価値が成功のポイントです。また、売手・買手ともにタイミングの考慮も求められます。
(1)人材価値の確認
技術者・エンジニア派遣会社のM&Aにかかる相場は、他業種と同様に会社の規模によって変動することから、特に決まった相場価格はありません。しかし、先述のように技術者やエンジニアの人材の価値が企業の値段に直結します。大まかな相場としては一人1000万円、派遣会社単位では最低でも10億円程度、人材価値と企業の値段がイコールとなることが多いでしょう。
(2)タイミングを見計らう
売手側は、自社の損益分岐点を把握した上で最適なタイミングを見計らって、売却や譲渡に踏み切ることが大切です。
買手側は、売手の現状把握がポイントです。売手が現在どのような状況にあるかを確認し、買収に最適なタイミングを見計らいましょう。
(3)技術者・エンジニアの専門ジャンル、専門性の高さの見極め
特定の技術に特化している企業ほど重宝される傾向があり、M&Aの成功率も高いです。技術だけでなく、特別なネットワークも持っているので情報量も多く、事業拡大のチャンスが期待できるからです。
あらゆるジャンルで必要とされているエンジニアリング技術は、細分化されています。大きく分けてハード系とソフト系、ソフト系もアプリ系やWEB系などに分けられ、さらにWEB系から課金・ゲーム系など枝分かれしています。これらの専門性やそのレベルがどれほどなのかをチェックすることも、M&Aを成功させるポイントです。
(4)売却方法の選択、メリット・デメリットの取捨選択
売手にとっては、会社分割なのか事業譲渡なのか、もしくは会社ごとすべて売却するのか、売却方法の選択、買手にとってはメリット・デメリットをどう取捨選択するかもポイントです。表明保証を入れることでリスクヘッジを行いますが、それでもトラブルになることがあります。万が一裁判となった場合、売手側が負けてしまうこともあるので、売手側は書面上入れられるリスクはすべて入れるようにしましょう。
7.技術者・エンジニア派遣会社でM&Aを行う際に注意すべきポイント
前述のポイントとともに、技術者・エンジニア派遣会社のM&Aでは以下に挙げる注意点もおさえておきましょう。重視したいのはやはり人材に関する点ですが、特に「ヒューマンデューデリ」はこの業界のM&Aではしっかり実施しておきたいポイントです。
(1)相場を調べる
先述のように、技術者・エンジニア派遣会社は在籍する人材一人あたりの価値が会社の価値に影響します。場合によっては、一人あたり1億もの金額をかけることもあります。派遣会社は中小企業が多いので、抱える人材の数などから相場を算出しておきましょう。
(2)ヒューマンデューデリを重視
「ヒューマンデューデリ」は非常に大切なポイントです。デューデリジェンスは買手が調査をするものですが、ヒューマンデューデリでは買手が買収先の人材一人ひとり面接をして選別をします職務経歴書を見て、過去の離職率などもチェックすることもあります。一定期間ヒアリングをして、公私にわたって悩みを聞くことも多いです。
前の経営者とうまくいっていなかった人材を引っ張ってくることもあるのですが、このような人材は恩義に感じてくれてスムーズに動いてくれます。ボトルネックについては、正社員よりもパート勤務の従業員に聞いた方がわかるでしょう。
ハード系かソフト系か、さらに特化したジャンルに強い人材なのかも大切ですが、年齢構成がマッチするかどうかも重要なポイントです。
また、エンジニアは業界的に労働時間が多い傾向にあります。健康経営の観点からもメンタルチェックを行うことも重要です。
8.まとめ
優秀な人材が集まらない技術者・エンジニアの派遣業界において、買手にとってM&Aは優秀な技術者・エンジニアを囲い込めるという大きなメリットが期待できます。売手にとっても、経営や雇用の安定、売却益を得られるなどのメリットがあります。技術者・エンジニア派遣会社のM&Aを成功させるためには、この業界ならではのメンタル面の問題や人材価値を確認しておくことが重要でしょう。
話者紹介
PMAパートナーズ
President
加藤 伸一(かとう しんいち)
1988年に都市銀行へ入行後、1997年中央官庁へ業務出向。2003年、大手損保グループへ入社。2014年にMBAを取得後、中小企業診断士の資格を取得する。2014年に株式会社PMAパートナーズ設立。
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