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競争の激しいドラックストア業界 M&Aの動向や事業承継のポイントを詳しく解説!

2020/05/31
更新日:2024/05/13

はじめに

薬事法の改正(注)により、医薬部外品に分類される商品が増えるなど、薬剤界では規制緩和が行われました。日用品も販売するドラッグストアの登場により、従来の調剤薬局は激しい競争に巻き込まれています。

医薬分業によって1980年代から調剤薬局が登場しましたが、事業承継の検討を必要とする年齢に差し掛かっている経営者がたくさんいるのが現在のドラッグストア業界です。そこでドラッグストア業界の事業承継について、その方法を中心に牧口会計事務所の牧口晴一さんにお話を伺いました。
(注:2013年の一部改正により、現在の名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」、厚生労働省では略して「医薬品医療機器等法」と呼ぶ。)


1.ドラックストア業界とは

ドラッグストアとは、医薬品や健康関連の商品、化粧品等の美容に関する商品などをセルフサービスで販売する店舗を指します。

販売対象となる医薬品には、薬剤師でなくても販売できる第二類医薬品や第三類医薬品が挙げられます。当初ドラッグストアという名称は、処方箋に基づいて医薬品を揃えて患者に与える薬剤師のいないお店に対して使用されていました。しかし近年では、調剤機能を持つドラッグストアも増えています。そのため、従来の調剤薬局とドラッグストアとの線引きが難しくなっています。

2.ドラックストア業界の動向

薬事法の改正により、医薬部外品に指定される商品が増え始めました。1999年にはドリンク剤やビタミン剤、消毒薬の一部が医薬部外品に指定され、コンビニエンスストアでも販売可能になりました。2004年には健胃薬、整腸薬、口腔咽喉薬の一部が医薬品から医薬部外品へと移行。2009年の改正薬事法により、登録販売者試験に合格すれば、薬剤師でなくても第二類医薬品や第三類医薬品を販売できるようになるなど、登録販売者制度が創設されました。

こうした規制緩和を背景に、医薬品だけでなく家庭用品や食品を取り扱い、消費者の健康全般に対する商品やサービスを提供することがドラッグストアに求められています。また、コンビニエンスストアでも医薬品の販売が可能となり、インターネット通販を含め、販売競争が激しくなっています。

ドラッグストア業界は規模を拡大している状況にあります。2018年度のドラッグストアの市場規模は6.2%増の7兆2,744億円であり、2025年には売上高10兆円、店舗数は2万5千店から3万店までを業界目標として掲げています。

3.ドラックストア業界のM&A事情

牧口晴一さん
ドラッグストアがM&Aを行う事情として、どのような背景があるのでしょうか。

(1)売手側の事情

事業規模がわずかであるため売却したい、あるいは経営から身を引きたいというのが売手側オーナーの考えです。売手側である調剤薬局の事情をいくつかあげます。

①世代的に事業承継を考える時期に

医薬分業が始まり、調剤薬局が登場したのが1980年代です。1990年代以降にはさらに増加しました。その頃に調剤薬局を開設したオーナーが60代になり、事業承継を考えるタイミングに入っています。

②勝手に調剤薬局を畳めない

調剤薬局は大病院と提携する門前薬局を除き、処方元であるクリニックの医師と連携することで生計を立てているケースがほとんどです。医師との付き合いもあるので、勝手に店舗を閉じることも難しいのです。

③大規模なドラッグストアとの競争

競争の激しいドラッグストア業界においては、規模の大きな店舗と競争する必要があります。小規模な調剤薬局は運営が難しくなり、事業を譲渡せざるを得ない状況もあります。

④薬剤師不在

薬剤師の問題もあります。調剤や第一類医薬品の販売に欠かせない薬剤師が辞めてしまえば、薬局の運営が困難になり、事業を譲渡せざるを得なくなります。

(2)買手側の事情

買手側のドラッグストアは、激しい販売競争に巻き込まれ、大手の同業他社だけでなく、医薬品を販売できるコンビニエンスストアやインターネット通販とも競争しなくてはならないという厳しい環境におかれています。その中で、全国展開しているドラッグストアは、多くの店舗を保有したいと考え、これがM&Aの動機になっています。調剤薬局の買収や同業他社のM&Aにより営業力を強化し、事業を拡大することが買手側であるドラッグストアの狙いです。

4.M&Aを行うメリット

売手、あるいは買手にとって、M&Aはどういったメリットがあるのでしょうか。

(1)売手側のメリット

良い買手をみつけて事業承継することで、患者や囲っている顧客、連携している医師に迷惑をかけないことがメリットとして挙げられます。また営業力や事業力をもつ規模のドラッグストアが買収することで、質の高いサービスを提供できる点も大きいでしょう。また売手側のオーナーには、M&Aによって莫大な資金を獲得でき、さらには連帯保証から解放されるメリットもあります。

(2)買手側のメリット

新規にドラッグストアを出店するためには、連携する医師を見つけるだけでなく、薬剤師や店舗、内装工事などが必要になります。さらに、薬局開設にかかる許認可を取得する必要もあります。M&Aによって既存の調剤薬局を獲得すれば、これらの手間を大幅に省くことが可能です。

また、新規出店の場合は顧客である患者の確保も必要です。当初の予想より処方箋が集まらず、患者を囲えないリスクもあります。すでに処方箋を充分集めており、患者を囲っている状態の調剤薬局を買収すれば、これらのリスクを回避できることが買手側のメリットです。

5.ドラックストア業界におけるM&Aの事例

売手側・買手側の事情から、調剤薬局が大規模なドラッグストアに事業承継するケースが増えています。ドラッグストア業界における事業承継やM&Aは、年間1,000~2,000件あるといわれています。

①ココカラファインが小石川薬局を買収

ドラッグストア業界7位のココカラファインは、2019年に東京の新宿に店舗を構える小石川薬局に対してM&Aを行いました。小石川薬局は1店舗の調剤薬局ですが、売上高が3億円強もあります。ココカラファインは、事業拡大のため、積極的に調剤薬局をM&Aを行おうとしていました。新宿地区における事業強化のため、小石川薬局をM&Aをするに至ったのです。

②ココカラファインとマツモトキヨシが経営統合を計画

大規模なドラッグストア間での争いも激しいものとなっています。ココカラファインは、業界第5位のマツモトキヨシと経営統合に関する覚書を2019年8月に締結しました。2021年10月に経営統合予定で、これが実現すれば売上高は合計で1兆円に達し、業界第1位に躍り出ます。

6.オーナー一族にメリットある事業承継の方法

会社設立のイメージ
調剤薬局における事業承継の方法は、大規模なドラッグストアがM&Aを行うだけではありません。息子や親族に事業承継すれば、オーナー一族で経営を引き続き維持できます。しかし、莫大な相続税が重くのしかかることに注意が必要です。

この問題の解決方法として有効なのが、自分たちで新たに設立した会社に株式を売却することで事業承継を行う方法です。便宜上、これを法人と呼ぶことにしましょう。法人は、株式会社や合同会社ではなく、一般社団法人です。株式を売却する先として、一般社団法人をオーナーが設立します。

一般社団法人とは、人の集まりに法人格を与えた組織を指します。いわゆるクラブですので、メンバーの決議で組織の運営や解散等を自由に決定できます。

(1)一般社団法人を設立する理由

実は、一般社団法人に対しては相続税がかからないのです。普通の会社を設立する場合、合名会社、合資会社、合同会社、株式会社のいずれも株券や持分を保有しています。財産を息子や親族へと承継すれば、それに対し相続税がかかります。ところが、一般社団法人には持分がないので税金がかかりません。

ただし、株式を一般社団法人に売却すると、株式が自分たちの所有ではなくなります。ドラッグストアでも薬局でもどういう業種でも構いませんが、自分たちが儲けていて事業承継で悩んでいる場合には、財産を自分たちが作った法人にドンと移転させて相続税がかからないようにするのが得策です。

(2)税制改正によるスキームの改良

このスキームは非常に強力であったため、2018年に税制が改正されて税金が少しかかるようになりました。そこで、このスキームに対してさらに工夫を行います。これが財産承継トラストと呼ばれるスキームです。

富裕層が節税対策で設立した財団法人でも構いませんし、国境なき医師団などに自分が支援したいと思っている場合、そこに寄付するのでも結構です。公益を目的とする法人に寄付する目的の一般社団法人を設立して、そこに財産を移転します。

もちろん、オーナーに後継者がいないとこのスキームは成り立ちませんので、後継者がいない場合には、第三者にM&Aをお願いするしかありません。

(3)2つの一般社団法人で合同会社を設立

財産や会社の中身を売却するための持分会社を設立します。持分会社とは、合名会社、合資会社、合同会社の総称で、今回の場合には合同会社を設立します。そこで現在保有している財産をその合同会社に移動させます。財産や企業の中身が動くことで財産が譲渡されるのです。

先ほどお話しした一般社団法人とは別の一般社団法人を設立します。現在のオーナーが設立した一般社団法人をAとします。合同会社を設立しますが、一般社団法人Aだけではありません。もうひとつの一般社団法人を設立し、これをXとしましょう。一般社団法人Xは、オーナーと公益に関する法人が設立したものです。医療法人でもNPO(民間非営利団体)法人でも構いませんが、ここを支援したいという一般社団法人Aと公益に関する法人の2社で設立します。

そうして一般社団法人AとXとが一緒になって、先ほどの合同会社を設立します。この合同会社にオーナーの財産を譲渡します。譲渡する際には譲渡所得税がかかりますが、それは避けられません。ただ自分で設立する会社なので、なるべく安い価格で売却できます。

オーナーは、財産が手元になくなったので、合同会社に売却した分だけお金を獲得できます。オーナーが所有していた会社の事業内容は、すべて一般社団法人や合同会社に承継されています。そのため、オーナーが亡くなった場合でも、合同会社に2つの一般社団法人が出資している状況に変わりはありません。その財産はオーナーの保有ではないため相続税がかかりません。

合同会社を設立する際、オーナー自身が理事もしくは社員になっても構いません。オーナーの息子や親族でも構いません。今までオーナーが経営していた会社が行っていた事業を合同会社が引き継いでいるので、役員になった場合には役員報酬がもらえます。これによって子や親族に対して未来永劫報酬を得る仕組みができます。

7.まとめ

小規模な調剤薬局が事業承継を行う場合、第三者とのM&Aが選択肢としてあります。ただし、経営権がオーナー一族から移ってしまいます。また、息子や親族に事業承継する場合には、相続税の問題が発生します。財産承継トラストは、経営権をオーナー一族で維持しつつも、相続税を安くできる強力な事業承継スキームとして推奨していますので、参考にしてみてください。

話者紹介

牧口晴一さん

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今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。


牧口会計事務所
税理士 牧口 晴一

慶應義塾大学法学部卒・名古屋大学大学院法学研究科修了。2015年『税務弘報』9月号「トップランナースペシャリスト9」。NHK文化センター相続事業承継担当講師。中央経済社『非公開株式譲渡の法務・税務(第6版)』等5冊、清文社「中小企業の事業承継」11版等刊行。「まるごと牧口先生」と「牧口大学」で税理士向けを中心に年間50回程度講演し、後者のDVDを毎年6枚製作。毎日1本の1分動画をYouTubeに2,5
00本余りアップ中。

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