保険代理店業界のM&Aはなぜ活発なのか? 現場の実態に学ぶ買収時の注意点を解説!
はじめに
保険業界の中で販売を担当する保険代理店は、時流に乗って躍進した過去があり、現存する店舗数も莫大です。その中では、事業主の高齢化によって事業承継の時期に差し掛かっている保険代理店も多数存在します。
また、金融庁により保険業界に対する規制が厳格化されたという背景もあって、個人や小規模の代理店は大型代理店や異業種企業からのM&Aの対象になるケースが増加しています。
保険代理店業界のM&Aの傾向と現状について、保険業界の事情に詳しい株式会社福田総合研究所
代表の福田さんにお話を伺いました。
目次
1.保険代理店業界の概況
(1)そもそも保険代理店とは?
「保険代理店」とは、いわゆるメーカーにあたる保険会社が提供する保険商品を、保険会社に代わって末端のユーザーに販売する代理店を意味します。そして契約者が支払う保険料の一部が、コミッションとして保険代理店の収入源になるのです。
保険代理店が扱う保険のカテゴリーは3種類あります。それは「生命保険」、「損害保険」、「少額短期保険」です。それぞれ「生保」、「損保」、「少短」という略称で呼ばれることもあります。
保険代理店の中には、3種類のうち1種類の保険だけを専業で扱う代理店もあれば、複数の種類を扱う代理店もあり、15社以上の保険会社の商品を取り扱う代理店が「大型代理店」です。最近では、この「大型代理店」が仕掛ける買収事例が増えています。
(2)保険代理店業界の景況は?
保険代理店業界全体の景況は右肩下がりで、あまり芳しくありません。その理由は2つあります。
1つ目は、金融庁の規制がどんどん厳格になってきており、加えて最近の「かんぽ生命」の不祥事が拍車をかけて、業界全体が萎縮傾向にあるということです。
2つ目は、顧客が保険に加入する方法が多様化し、インターネットのサイトから手軽に加入したり、ダイレクトメールで加入したりするケースも増えており、店舗である保険代理店の立ち位置が危ぶまれてきたことです。
とはいえ、代理店というものもあくまで近年の傾向に過ぎません。保険というものは、当初は保険会社の営業マンが販売するのが基本でした。それがいつしか保険の窓口で販売される時代が来て、その次に代理店による販売が主流になりました。
そして昨今ではインターネット上での販売が増加し、保険代理店もその影響をじわりじわりと受け初めているのです。
(3)規制に厳しさを増す保険代理店の業務
また、先に述べた2つの理由があいまって、金融庁が定める厳格化規制に対応するために、保険会社が業務内容に問題がある代理店から販売権を取り上げる「売り止め」が発生することがあります。
代理店があまりにも多くの保険会社の商品を扱うために、商品内容を把握しきれず、その結果、頻繁に保険会社に基本的な問い合わせが来たり、いい加減な販売が横行したりするようになりました。
実例としては、東京海上日動火災保険株式会社が保険代理店での売り止めを実施しました。
また、15社以上の保険を扱う大型代理店は、直接金融庁の検査を受けることになりました。さらに、販売する際には1社の保険だけを勧める販売方法は禁止されたのです。
複数の、少なくとも3社程度の保険内容を並行して提案し、さらに提案する理由を顧客にきちんと説明して納得を得た上で販売することが義務付けられました。
また、定期的に保険会社が開催する販売研修を受ける必要も生まれました。コンプライアンスの徹底が要求され、遵守できない場合は販売権を失ってしまいます。そのような流れについていけない保険代理店も増えてきました。
(4)個人代理店はそれ自体が時代に不適合
上記のような経緯の中で、メーカーである保険会社は、1人で運営している保険代理店について、それ自体がすでに時代に対応できないと見なしつつあります。
コンプライアンスの遵守も難しく、すでに顧客が膨大な数である場合、それ以上顧客を増やしても個人では手に負えないだろうという理屈です。
アフラックを中心に、小規模の保険代理店の中で新規の保険契約をろくに取らずに、既存の契約のコミッションだけでしのいでいるところは、保険会社自身が保険契約を買い取ったり、ほかの代理店と合併させたりする動きが生まれています。
保険代理店業界としてはシュリンク(縮小)傾向にあり、保険代理店の店舗数もセブンイレブンなどと同じくすでにオーバーストアになっていて、現在は減少傾向です。また代理店の事業主が60〜70代に差し掛かって高齢化し、事業承継の時期に来ています。
しかしながら、保険代理店業界は芳しくない景況なので後継者もなかなか見つかりません。したがってこの業界においても、M&Aが活発に行われているのです。
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2.保険代理店業界のM&A
(1)買手側のメリット
保険の仕組みとして、契約者が保険契約を継続している限り、保険会社から保険代理店にコミッション(手数料)が入ります。
コミッションは加入1年目が最も多く、契約者が支払う保険料の実に半分程度が保険代理店に入ります。2〜7年目までは10%程度が入り、それ以降は入らなくなるのが一般的です。
例外的に、保険料が支払われる限りずっと入り続けるものもあります。
保険代理店のM&Aにおける買手側のメリットは、代理店を買うだけである程度のコミッションが、解約されない限り何もしないでも確実に入ってくることです。
ただし「保全」という業務が発生します。これは保険契約者が加入している保険の保障に該当する状況になったときに、給付がなされるための手続き全般の総称です。ある程度の顧客数があれば、保全の業務が日々発生するのは当然で、そこが面倒な部分です。
とはいえトータルで考えれば、顧客が増えてコミッションがついてくるので、メリットは非常に大きいといってよいでしょう。
(2)売手側のメリット
保険代理店は、一般的に売りやすいといわれています。売手側のメリットは、多額の売却益が入り、煩雑な事務や保全作業の一切から解放されることです。
また、保険は在庫がないビジネスなので、M&Aが決まればすぐに移管が終わります。要するに、売手としては将来入る予定のコミッションのすべてではないにせよ、相当な額が煩わしい手続きなしに手に入るともいえるのです。
3.株式譲渡か商権譲渡か
M&A・事業承継を検討している方へ
当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。
実際には、保険代理店関連のM&Aは、ほとんどが株式譲渡です。商権の譲渡、いわゆる事業譲渡という選択肢はあまり取られません。その理由を説明しましょう。
本来、保険会社が個々の保険代理店と販売代理契約を交わす際には、従業員数やコンプライアンスが守られるかなどの審査がおこなわれます。もし保険業務を未だやったことのない会社に保険代理店の事業が譲渡された場合、買収元は一から審査されるので大変です。
しかし、株式譲渡の形式で保険代理店をまるごと買ってしまえば、審査の必要はありません。よって、異業種の会社が保険代理店を買収する場合は会社ごと買収し、社名も従業員もそのままで子会社化するパターンが一般的です。
そうすれば従業員の雇用も保証されます。余談ながら、事業譲渡なら従業員であるセールスマンの将来のコミッションもなくなってしまいますが、会社ごと買収された場合は継続されるので、従業員にとっては雇用に加えてコミッションも保証されるのです。
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4.保険業界M&Aの具体事例
(1)アフラックの場合
過去においては、1人で運営する保険代理店が許容されていた時代が長らく続きました。しかし、世代交代をして事業主の子や親類が事業を継いでいることもよくあります。
最近手掛けた事例では、三代続いたファミリー経営の代理店の場合がありました。
その代理店は顧客が1万人近くあり、すでに「ドンブリ勘定」に陥っていました。保険会社からコミッションが入っても、すぐに生活費や遊興費に消え、納税を怠り、新規開拓もせず、保全にすら対応しなくなってクレームを生んだりしていました。
そこでアフラックは、その代理店の販売権を取り消すことにして、ほかの大きい代理店が契約をすべて買い上げることになりました。総額約1億円の買収事例でした。
(2)幸楽苑とヒューリックの場合
2018年、ラーメン店の展開を本業とする幸楽苑ホールディングスは、ヒューリック保険サービスに自社の保険事業「デン・ホケン」を約1億5,500万円で事業譲渡しました。
幸楽苑ホールディオングスにとって、ラーメン店を軸とした外食産業、いわゆる本業に経営資源を集中するための決断でした。
デン・ホケンはそれまで幸楽苑ホールディングスの従業員向け生命保険や、法人向け損害保険を販売していました。
あくまで事業の譲渡なので、同社で保険代理店事業を担っていた完全子会社であるデン・ホケンは、幸楽苑ホールディングスが従業員を引き継いだ上で解散となったのでした。
(2)第一生命の場合
第一生命は、2000年代中頃からM&Aを積極的に展開しています。そのスキームは、国内の保険代理店を買収する店舗型のM&Aと、海外保険会社の買収というグローバル戦略です。
日本は少子高齢化で人口が減少傾向にあります。その中で、減少してゆく国内需要を埋める意味合いで保険代理店を買収して顧客を増やし、他方では今後人口が増加していくことが見込まれる東南アジアなど海外の生命保険会社を買収しているのです。
5.保険代理店業界M&Aのポイント
(1)保険会社への確認
保険代理店を買収する場合には、前もって確認をしなければ後に損失の元となる事柄がいくつかあります。
まず、代理店が窓口をしている保険会社に、契約を移管してもよいかを事前に相談しなければいけません。なぜなら、仮に保険会社がその代理店から契約を買い上げる意向があって、買収はしたものの保有契約はすでになかったというケースも起こり得るからです。
したがって、保険会社への相談抜きに保険代理店を買収するのは危険だといえるでしょう。
また、保険会社は代理店に必ずノルマを課しています。ですから、その代理店のノルマ達成状況を確認することも必要です。もはやノルマを果たす能力がない代理店を買収しても、すぐにノルマ不達成続きという理由で保険会社が販売権を取り上げかねません。
いずれにしても、保険会社と代理店の契約状況を確認することが大切です。
(2)保険代理店M&Aの買収額の相場
M&Aの買収金額相場というものは、あくまで一般的には売手の年間利益に対して3~4倍が相場の目安です。その根拠は、よほどのことがない限り3年以内にその会社が破綻することはないでしょうから、3年程度で投資した金額をほぼ全額回収できる見込みが立つからです。
しかし、保険業界の場合は少し違います。売手の保険代理店が保有する契約が将来生む予定のコミッションの予想総額を計算し、その60%程度が買収額の相場です。
なぜ60%かという根拠には2点あります。保有している保険契約の中には解約されるリスクが少なからずあります。また、取り扱っている保険会社が突然にコミッション率を下げてくるリスクもあります。
それらのリスクを考え合わせると、60%ぐらいが妥当であると考えられます。実際の買収額は、その目安をもとに、様々な条件を考慮したうえで決まります。
6.保険代理店M&Aで注意すべき点
保険代理店に対するM&Aを検討する際に、前もって注意を払っておくべき項目を紹介します。
(1)契約者の年齢層の分布
売手の保険代理店が保有している契約に関して、契約者の年齢層分布をよく見極める必要があります。コミッションは、永遠に続くものではありません。契約者が死亡するとそこでコミッションにも終止符が打たれます。
つまり、高齢者が多いと、当然ながら将来的なコミッションは確実に減少します。逆に、若い契約者が多い保険代理店ならば買収する価値が高いといえるでしょう。
(2)契約者の居住地分布
契約者にはサラリーマンが圧倒的に多く、サラリーマンには転勤があるので、契約時から時間が経つと全国に散らばっていきます。保険代理店はそれらをずっとフォローしなければなりません。そこで契約者の分布を知る必要が生まれます。
あまりに遠方の契約者が多いとフォローが大変です。まして、保険会社によっては保全業務を対面で行うことを義務付けている場合があり、保全業務に莫大な交通費が掛かってしまいます。
(3)契約者の属性
契約者の属性にも注意が必要です。例えば、大手企業などの特定法人を対象にしている場合は、コミッションも今後の契約の見込みもある程度安定しています。たとえば大企業の従業員を得意先として取り込んでいれば、今後の新規獲得も安泰です。
一方、飛び込み営業中心の代理店なら顧客属性は多様です。保有契約のコミッションはともかくとして、新規契約の獲得は今後難しくなるでしょう。
(4)取り扱っている保険会社
保険代理店が保険代理店を買収する場合は、売手が扱っている保険会社を確認しておくことも重要です。
なぜなら、保険会社は各社でやり方が異なり、もし未だ扱ったことのない保険を売手が扱っていた場合、1から対応するのは面倒です。買手がすでに扱っている保険会社と同じ保険会社を扱っている方が望ましいのはいうまでもありません。
(5)保険代理店の月次試算表の確認
保険は、月払いで毎月コミッションが入ってきます。保険代理店を買収する場合には、直近のものも含めて月次の試算表確認しておくことが必要です。
なぜなら、買うと決めた時点ではコミッションが入っていたとしても、実際に買収がおこなわれた時点では、顧客が離れてコミッションが減っている可能性があるからです。
また、代理店の傾向によっては、契約1年目の高いコミッションばかりを狙い、2年目に乗り換えさせる営業方針のところがあるのです。そういう方針の代理店には、長期的な安定したコミッションの保証はありません。
保険業界のM&Aは売りたい人の方が多く、深く調べもせずに内情が悪くて売り急いでいる代理店を買収すると、多額の損失を背負うことになりかねません。
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7.保険業界に激震を与えたバレンタイン・ショックとは?
2019年の2月14日、保険業界内で「バレンタイン・ショック」と呼ばれる一件が、大きな衝撃を与えました。これは、国税庁によっていわゆる「節税保険」の取り扱いを見直す方針が発表された件です。
当時、生命保険各社が打ち出す「節税効果」をうたった「死亡定期保険」が、多くの中小企業経営者たちにとってある種のブームになっていました。
保険代理店も当然ながら、需要がある死亡定期保険を競って販売してきたのです。そのブームに国税庁のメスが入り、突如終焉を迎えることになりました。
それまでの税法上のルールを当てはめると、形式的には死亡定期保険の保険料は経費扱いになりました。しかしながら、実態と乖離した節税効果を売りにする保険商品が開発され、販売されていたのです。
これに対し、死亡定期保険に対する税務上の取り扱いを国税庁が見直す方針を示したことによって、それまでの節税効果というセールスポイントの根拠を一切なくしました。
そこで、日本生命保険などの大手保険会社4社は迅速に対応し、同保険の販売を停止する方針を打ち出しました。それによってほかの多くの生命保険会社にも、販売を取り止める動きが広がりました。
その直前までは数千億円規模といわれるまでに拡大した大きな市場の消失により、保険業界には激震が走ったのです。
節税保険ばかりを扱っていた保険代理店も存在していました。ここでいえることは、そういう代理店を知らずに買収しても、すでに保有している契約のコミッションは入ったとしても今後の成長が難しいということでしょう。
8.保険業界M&Aの最新トレンド
(1)異種の大手企業による保険代理店の買収
保険業界のM&Aに関する最近の傾向には、大企業が異業種事業に進出する一環として保険代理店を買収するケースがあり、この場合は高く売却できることが多いようです。
この背景には、本業の経営がうまくいかなくなり、将来の見込みが悲観的である事情があります。そのような企業にとっては、保険代理店を買収するだけで5〜10年間の収益アップが見込めるので、多少売却金額が高めでも買収が成立しやすいのです。
(2)楽天生命のケース
楽天株式会社の場合は、代理店ではなく「保険会社そのもの」を買いました。それが楽天生命となりました。
保険会社は、いわゆる「大数の法則」に支配されており、営業を始めてから20年間はまともに利益が出ない構造です。極端な例を挙げれば、保険業を開始して翌日に契約者が死亡し、生命保険金を1億円支払うことになる可能性があります。
そうなると利益どころか存続すら厳しくなるといえるでしょう。しかし保険会社は、年数が経ってある一定数の充分な契約数を保有するまでに至ると、盤石な利益が確実かつ継続的に得られるようになる「ストックビジネス」なのです。
楽天株式会社の 三木谷浩史氏は、ストックビジネスの代表格である保険会社にM&Aを仕掛けたということでしょう。
保険代理店も同様に、保険契約が続いている限りはコミッションが入ってきます。ですから、異業種の企業にとっては、保険代理店を買収して数年間の確実な収益を得ることが可能なのです。
9.まとめ
少子高齢化による人口減少やインターネットによる保険契約の隆盛のあおりを受け、保険代理店業界はシュリンクを余儀なくされており、今後はより一層厳しい状況になることが予想されます。
保険代理店の個人事業主が高齢になり後継者を探していても、将来の見込みが悲観的な業界ゆえに後継者を見つけることは容易ではありません。こういった背景によって保険代理店を売却したい事業主も多く、保険代理店のM&Aは活発です。
しかし、売り急いでいる事業主も多いので、保険代理店のM&Aを検討する買手企業は、対象になる代理店の既存契約者数や保有契約の価値などを、しっかり峻別する眼力が必要です。
話者紹介
株式会社福田総合研究所
福田 徹
早稲田大学卒業
豪州Bond大学MBA
東日本国際大学客員教授
國學院大學・武蔵大学・関東学院大学教員
著書:「あなたの保険はもっと安くできる」
「なぜ会社の資金繰りが悪くなったのか」ほか
資格:CFP,1級ファイナンシャル・プランニング技能士、
証券アナリストほか
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