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旅館・ホテル業界のM&A動向・事例について解説

はじめに

近年の旅館・ホテル業界は、宿泊・旅行スタイルの変化や、訪日外国人旅行客の急増に伴い市場も活性化しています。その一方で、新しい波に乗り切れない個人経営施設の経営再建や事業撤退を目的としたM&Aがさまざまなかたちで展開されています。旅館・ホテル業界の市場およびM&A動向と事例、売手が押さえておきたいM&Aの成功ポイントや注意点などについて、かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社の八木敦史様に聞きました。


1. 旅館・ホテル業界の市場動向

02_旅館・ホテル業界の市場動向

近年の旅館・ホテル業界は、宿泊・旅行スタイルの変化や、訪日外国人旅行客の急増に伴い市場も活性化し、新しいフェイズを迎えています。ブランド力のある外資ホテルの参入、宿泊主体型のビジネスホテルの台頭、民泊の登場などにより市場規模が広がる一方で、新しいニーズを取り込めず苦戦する個人経営の旅館などが散見され始めるなど、明暗が分かれ始めています。施設数の変化でいえば、ホテルはこの20年間で8,000軒から1万軒へと約2割増加し、旅館は7万軒から4万軒へと約4割減少しています。

ホテルの施設数増加の背景には、近年の中国・韓国・台湾などのアジア諸国からのインバウンド需要の拡大があります。訪日旅行客数はこの20年間で約500万人から約3,000万人へと6倍増えていますが、この数字が急激に伸びたのはこの3〜5年の間に集中しています。このような大きな変化にうまく対応し、ビジネス拡大の機会を活かせたことが大きいでしょう。

旅館数の減少については、ホテルに比べて個人経営の施設が多く、経営の悪化や代替わりのタイミングで廃業するケースが少なくありません。ひと昔前の旅館は、団体客が中心で宿泊単価も高く、地域の催しでも積極的に利用されていたため、毎年収益を上げていました。その後、団体旅行ブームが終わって個人旅行の時代が到来しましたが、一部の旅館は旧来のスタイルをそのまま通し続け、気づけば新しい流れから取り残されていました。近年のインバウンドという新たな宿泊需要に対しても、個人経営の旅館には集客のノウハウがないことが多く、代理店に頼らざるを得ない状況です。これでは高い手数料がかかるうえ、本来アプローチすべき層にもリーチできず、新しいノウハウも蓄積されません。長年にわたるこのようなズレの積み重ねから業績は徐々に右肩下がりになり、従業員が自ら辞めてしまったり、固定費を抑えるために欠員を補充できなかったりと、人材不足で状況がさらに悪化するというパターンに陥るケースもあります。

補足ではありますが、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、外国人観光客の「訪日前に最も期待していたこと」は、第1位は日本食(約30%)、次いで景勝地(約15%)などが続くのですが、第4位に日本的な体験として温泉(約8%)が挙げられています。旅館数が減少する一方で、「温泉旅館」が外国人の訪日への動機付けにもなっているという点は見逃せません。現在、インバウンドの恩恵は、都市圏や有名な観光地など特定のエリアに集中し、地方へは充分に波及しているとはいえません。一部にオーバーツーリズム(特定の観光地にキャパシティ以上の観光客が押し寄せること)が起きている今こそ、もっと地方の魅力に目を向けてもらえるような施策や、関心を持ってくれた外国人旅行客を取りこぼさないような、旅館側の仕組みも必要だと思っています。


2. 旅館・ホテル業界のM&A動向

03_旅館・ホテル業界のM&A動向

訪日外国人観光客の激増でインバウンド需要が高まるなか、中国系都市ファンドなどが日本の旅館・ホテル業界に注目しています。中国の投資家や事業家にとってみれば、多くの自国民が旅行先を日本に選んでいるのを目にしているわけですから当然です。しかも、日本では現在旅館業界が苦戦していて、比較的リーズナブルな価格で施設を取得できる状況にあります。施設を取得し、中国から直の送客ルートを構築すれば、近い将来に大きな収益を上げることができると見込んでいるようです。

次に旅館・ホテル業界のM&Aの動向について解説します。他の業界とも共通していますが、M&Aスキームとしては、株式を100%取得し、新しいオーナーのグループ内の子会社になる「株式譲渡」を選択するケースが一般的です。その際に注意すべきことは、帳簿に記載されていない簿外の債務はないか、帳簿に記載されている資産と負債が実態を反映しているかといった点。この法人格をすべて引き受けるべきか、買収監査(デューディリジェンス)などを経て取り組むという慎重な姿勢が非常に重要です。

株式譲渡ではないスキームを用いる場合は、法人から一部を切り出す事業譲渡や会社分割の手続きなどを選択することになりますが、これによって買手は簿外債務のリスクを遮断することができます。事業再生の局面ですと、事業の売却を行っても借入が大きく残っている状態がほとんどですが、株式譲渡の場合は法人を丸ごと取得することになるため、借入も買手の負担になります。

旅館・ホテル業界におけるM&Aでは、許認可や不動産の承継が論点になります。営業許可は当然のこと、衛生関係や食品関係も許認可が必須ですし、風営法の許可も必要となる営業形態もあります。株式譲渡の場合は、法人格に変更はないので、代表者変更等の届出のみで済むケースは多いと思います。会社分割の場合は、現状の許認可を「承継する」という申請が可能で、手続きは簡易的。コストは数万円程度、手続き期間も1ヶ月程度で、スムーズな承継が可能です。ただし、会社分割を実行する前に申請を行った上で許可を受ける必要があり、許可を受ける前に会社分割を実行すると、営業許可は失効してしまうので手続きを行う際は、事前に管轄部署に問い合わせて相談しながら進めるとよいでしょう。

慎重な対応が必要になるのは、事業譲渡を選択する場合です。事業譲渡の場合、新しい法人が許認可を新規取得することになり、申請をしてから許可が下りるまでに2ヶ月以上かかることも。しかも、新規登録ですので各書類を一から揃える必要がある上、そのために必要な測量なども依頼する可能性も出てくるため手続きが煩雑です。また、万が一、建物や設備が現行の法令等の基準を満たしていない場合、そのままだと許認可を取得できないため細心の注意を払う必要があります。事業を別の法人に承継する前提で、会社分割と事業譲渡のどちらも選ぶことができる場合であれば、会社分割を選択した方がさまざまな面でスムーズに動けます。会社分割は、従業員との雇用契約、取引先との業務委託契約などをまとめて承継することが可能です。一方、事業譲渡は、従業員や取引先と個別に契約を結び直す必要があります。

また、M&A後の話ではありますが、運営上のスキームとしては、不動産を所有する会社と事業を運営する会社を分けて行うケースもあります。①買手グループ内で、不動産を所有する会社、事業を運営する会社を分けるケース ②不動産の買手と、事業の買手が別々となるケース ③買手が不動産と事業を承継するが、運営の一部またはすべてを別の運営会社に委託するケースなど、さまざまなタイプがあります。各案件でどのリスクをどちらが負担するかという違いで、パターンも大きく変わってきます。


3. 旅館・ホテル業界のM&A事例

04_旅館・ホテル業界のM&A事例

M&A・事業承継を検討している方へ

当社では買手企業だけでなく、「M&A仲介会社」とのマッチングも可能です。
今すぐにM&Aをご検討されていなくても大丈夫です。お気軽にご相談ください。

ここでは旅館・ホテル業界における最近のM&A事例について紹介します。

①ベインキャピタルによる大江戸温泉物語のM&A

2015年3月、大手投資ファンドのベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン(米国)が大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ株式会社を買収。同社はこれまでさまざまな業種に投資し、収益改善に取り組んできた実績があります。仕入れのスケールメリットを活かした、宿泊単価を下げる仕組みなど、他社の経営支援を通じて培った経験が、ここでも活かされています。経営者人材を招聘する力も強く、ポテンシャルのある施設には、経験値の高いCEOやCFOを配置するため、通常より早い事業の立て直しが可能になります。同社では継続的に事業を取得するための資金確保にREITを採用しています。取得した事業を改善し、不動産価値を高めてREITで買い受けてもらう。同時に投資を募りつつ、そこで得た資金を別の事業に充てるのです。経営再建と資金の活用の両輪を回せるのはファンド的な強みといえるでしょう。

②自遊人による里山十帖のM&A

株式会社自遊人(新潟県南魚沼市)はもともと東京に本社を構える出版・制作中心の企業でしたが、豊かな自然と食材を求め、2004年に新潟の南魚沼市に一部移転(2006年に完全移転)。新潟の自然や食を通じて、人々のクリエイティビティを刺激するような施設を作りたいと思っていた矢先に、地元の経営難の老舗旅館を取得。大幅な修繕を経て2014年5月に誕生したのが旅館「里山十帖」です。当初のリノベーション予算は1億円でしたが、様々な修繕が必要となり最終的には3.5億円までかかったようです。同館の客室は12室のみで、食事代込みの宿泊単価は3〜5万円ほどと決して安くありませんが、オープン後3ヶ月で9割の稼働率を達成し、そのまま維持し続け、現在、3ヶ月先までほぼ満室です。

同社の成功の理由はコンセプトとターゲットを明確にしたことです。豊かな自然の中でクリエイティブな感覚を磨いてほしいというコンセプト、このコンセプトに共感する人をターゲットに設定しました。これらが時代のニーズにマッチしたことが大きいでしょう。なお、屋号の「帖」が意味するのは「物語」。つまり「里山十帖」は客室やレストラン、ライフスタイルショップなど、10の物語を体験できる施設だということ。現在「里山十帖」と共通のコンセプトで、長野県松本市の温泉の再生プロジェクトにも着手しており。2020年春にオープン予定です。


4. 売却側(売手)・買収側(買手)双方のメリット

【売手のメリット】

05_売却側(売手)・買収側(買手)双方のメリット

旅館・ホテル業界におけるM&Aのメリットは、売手のスタンスによってさまざまです。引退を検討している経営者でしたら、株式譲渡を活用することで創業者却益を得られます。また、後継者不足で限界まで頑張らざるを得なかった方でも、承継先が決まることで、心置きなくセカンドライフを迎えられます。複数の事業を営む方が、旅館業以外の事業に集中したい場合、M&Aを行うことで効率のいいビジネスの「選択と集中」を行えます。

事業承継により、手塩にかけて育ててきた事業を残せることも大きなメリット。買手に経営を任せることで、自分だけでは充分にできなかった資金や人材の投入、新たな視点のマーケティングによる集客により、事業の存続・発展も期待できるでしょう。また、その過程で既存事業とのシナジーも期待できます。例えば、飲食事業と宿泊事業では、使用する間接材の親和性が高く、買手の事業規模が大きければ、安く仕入れるルートを作れる可能性も高まります。結果として、事業のコスト改善につながるでしょう。

個人資産の保護もM&Aにおける大きなメリットです。万が一破産してしまったら経営者個人の連帯保証から、自宅の差し押さえ等も考えらえますが、金融機関との協議や一定の手続きの中で対応すれば、連帯保証を解除してもらえる可能性もあるのです。ただし、事業譲渡や会社分割における譲渡対価は法人に入ることになるため、経営者個人の資産を守ることはできますが、売却利益を直接得られるわけではありません。しかし、手塩にかけてきた大事な事業を守ることができるのです。

【買手のメリット】

同じ業種間のM&Aであれば、買手は新規エリアに進出して事業領域の拡大を図れます。異業種間でわかりやすいのは、買手側の「新規参入」の糸口になることでしょうか。例えば、インテリア小売業大手の株式会社ニトリ(北海道札幌市)は、2018年に創業の地・北海道の小樽でホテル産業に参入しました。地域の活性化への貢献と同時に、創業の地である北海道でシンボル的な新事業を試しているという側面もあるかもしれません。既存業種の営業圏内に新規の業種で参入できるのは、さまざまな面で効率が良く魅力的です。旅館業の場合は経営のハンドリングが難しい面も多々ありますが、案件によっては比較的リーズナブルな予算で取得できることがあるため、順調に進めば投資コストを早めに回収できるという希望的側面があります。


5. 売手が抑えておきたい成功ポイント・注意点

06_売手が抑えておきたい成功ポイント・注意点

最後に、M&Aを行う上で、売手が押さえておきたい成功ポイントや注意点について説明します。

①事業の透明性

買手にとって、事業の透明性は大きな判断材料です。複数拠点がある会社ならば、各拠点の採算、月次決算ができているかどうかもポイント。支払い時に費用計上の処理をする会社もありますが、これでは実体の損益や負債の状況が不透明です。個人商店の延長のような会社で、法人と個人の費用が混ざっているケースもあります。こうなると見た目上の損益が悪化しますし、実態がわかりにくくなくなるため、買手は躊躇してしまいます。

② 損益面の改善

損益面についてはできる限り改善し、少しでも良い状態にしておきましょう。コスト再考も然り。品目リストを見直し、洗い出しを行い、現在不要なものは削除も検討しましょう。また、付き合いで仕入れている物品に関しても、経営者としてドライに徹し、まずは見積もりを下げてもらいましょう。

③許認可関係をクリアにしておく

個人事業を経て法人になった場合など、旅館業営業許可や不動産の名義が法人ではなく個人になっていることがあります。営業許可に関しては、個人から法人に引き継ぐことはできません。その「個人」が事業に従事している間はいいのですが、辞めた瞬間に許可がない状態に陥ってしまいます。不動産に関しては、個人で所有している不動産の上に、法人名義で建物を建てているケースも多く、売却する際に、登記を変えていなかったという例もあるので、注意しましょう。

温泉権も地方によってはかなり複雑で、確認が必要です。市町村管轄の場合は問題ありませんが、古くから旅館業に携わる地主達が管理している場合などは、外部からの参入が拒まれるケースもあります。温泉エリアで温泉が使えなければ、そもそも事業が成立しません。まずは色々な事実関係を把握し、解決するために何をすべきかを整理してから、買手との交渉に臨んでください。なお、老舗などの古い施設の場合、不動産の図面や権利書、許認可関係の重要書類が、紛失しているケースも見受けられます。改めて確認をしましょう。

④ 設備の更新

旅館の温泉部分のボイラーなど、設備の更新ができていないケースが多々あります。どこに問題があり、どの位の費用で修復できるか明確ですと、買手側としても予算も組みやすく、意思決定がしやすくなります。

⑤ コンセプトの擦り合わせと明確化

現在勝ち残っている買手は、基本的にコンセプトがはっきりしています。都市圏で宿泊室数が100室以上の宿泊施設のみを対象とする買手もいれば、地元密着で小規模な宿泊施設を得意とする買手もいます。立地や宿泊室数だけでなく、顧客層の設定、サービス提供の方針、従業員に対する考え方なども買手により異なります。立地等については話し合いで調整できるものではありませんが、運営方針については話し合いで擦り合わせの余地がある部分です。十分に意見交換を行い、双方が納得した上で進めることが重要です。

⑥ キーマンと従業員のモチベーション

経営者や女将など、キーマンのやる気の高さも、人の気持ちを動かす大事な要素。特に買手が地元の方や、コンセプトを重要視するような方にとっては、「人対人」の関係は特に重要ですので、従業員のやる気もチェックされるでしょう。旅館・ホテル業は「人」が提供するサービスですので、モチベーションの低い集団では一緒に戦えません。経営が悪化していても、キーマンや従業員にやる気があれば、新体制での指導により、状況突破できる可能性が充分にあるのです。


話者紹介

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社八木 敦史
かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
マネージャー 事業承継士・宅地建物取引士
八木 敦史(やぎ あつし)

中堅・中小企業様が直面している事業承継や事業再生などの経営課題を解決するべく、M&Aアドバイザリー業務に従事。メーカー、不動産、農林水産、食品、旅館など各種業界の成約実績を有する。以前はベンチャー企業にて経営管理および組織構築に従事。売却企業および買収企業におけるM&Aの実務担当者としての経験を有する。慶應義塾大学商学部卒。

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