個人事業者の廃業時における消費税の効果的な節税方法について詳しく解説
はじめに
経営不振や後継者不足により、やむを得ず廃業を選ぶ個人事業者もいることでしょう。廃業する場合には、事業用資産を保有していることも多いのではないでしょうか。
個人事業者が廃業するときに、事業用資産を家事用資産に転用すると、みなし譲渡の規定が適用されて消費税が課せられます。そこで今回は、この廃業時の消費税について、税理士法人中山会計の常務社員税理士である小嶋純一さんに詳しくお話を伺いました。
1.個人事業者のみなし譲渡とは
個人事業者が廃業するときには、保有資産の取り扱いには注意が必要です。ここでは、どのような行為がみなし譲渡となるのかを説明します。
(1)消費税の課税対象となる取引とは
消費税の課税対象は、国内取引と輸入取引に限られ、国外で行われる取引は含まれません。国内取引の場合は、次の4つすべてを満たす取引が課税対象となります。
・国内において取引するもの
・事業者が事業として行うもの
・対価を得て行うもの
・資産の譲渡、資産の貸付、役務の提供であること
このなかで「事業者が事業として行うもの」について、法人が行う取引は全て「事業として」に該当します。しかし、個人事業者には事業者の立場と消費者の立場があるので、事業者の立場で行う取引のみが「事業として」にあたり、課税対象となるのです。
たとえば、家庭で使用しているテレビなどの家事用資産の売却は「事業として」にはあたらず、この場合は不課税です。
(2)みなし譲渡とは
みなし譲渡とは、無償あるいは著しく低い価格で資産を譲渡したにもかかわらず、時価で譲渡したとみなして課税する税制上の規定のことです。事業者から個人に対する資産の譲渡などは、みなし譲渡として消費税が課せられます。
本来、資産の贈与や家事使用(個人事業者が事業用の資産を家事のために使用すること)は、対価を受けないため消費税がかかりません。しかし、この状態を認めると、個人事業者は、事業者として物品を購入した後に家事使用することで、消費税の還付が受けられるので不公平です。こうした税負担の回避を防ぐために、みなし譲渡の規定が設けられています。
個人事業者が事業を廃業するときには、事業用資産を処分せずに家庭で引き続き使用することもあるでしょう。こういった場合、事業用資産を家事用資産として転用したものとみなされ、みなし譲渡として事業用資産の時価を課税売上として計上しなければなりません。
たとえば、事業で使っていた自動車を廃業後も使用し続けると仮定します。200万円で購入した自動車を減価償却して計上しており、廃業時には未償却の30万円が残っていました。その自動車は、事業用資産として個人に売却したとみなされ、その30万円は消費税の計算上、売上として計算しなければなりません。結果として、その30万円には消費税がかかります。
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2.事業廃止日について
課税事業者が事業を廃止するときは、「事業廃止届出書」を提出しなければならず、事業廃止年月日として記載した日付が事業廃止日とみなされます。
この事業廃止日を決める際に、みなし譲渡として課税されるのを防ぐために、実際の日付より数年経った日付を記入する人もいるかもしれません。しかし、税務調査が入った場合、明らかに事業廃止日より前に取引が停止していると、脱税と認定される可能性もあります。
脱税ではなく、譲渡課税の負担を軽減する方法を、次に説明していきます。
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3.個人事業者が廃業するときの節税対策とは
それでは、個人事業者が廃業する際には、消費税節税のためにどのような対策がとれるのでしょうか。
(1)免税事業者になって廃業する
事業をまだ数年続けられる状況であれば、事業規模を縮小して免税事業者になってから廃業することで消費税の負担を削減することができます。
免税事業者とは、その言葉どおり消費税の納税義務がない事業者のことです。一方、納税義務がある事業者のことを課税事業者と呼びます。
免税事業者と認定されるのは、比較的規模の小さい事業の事業者です。なぜなら、消費税額の集計は労力を必要とするため、規模の小さい事業者にとってかなり負担となるからです。そういった観点から、規模の小さい事業者に対しては納税義務を免除しています。ちなみに、消費税の納税義務が免除されているため、消費税の還付は受けられません。
免税事業者にあたるかどうかは、課税の基準期間における課税売上高が1,000万円以下かどうかで判断されます。基準期間における課税売上高とは、前々年の課税売上高のことを指します。
わかりやすく具体的な例を挙げてみましょう。たとえば、A社の課税売上高が次のように推移したとします。
令和元年度 課税売上高800万円
令和2年度 課税売上高1,200万円
この場合令和3年度には、令和元年度の課税売上高が1,000万円以下なので消費税を納める必要がありません。一方、令和4年度は、令和2年度の課税売上高が1,000万円を超えているので消費税を納めなければなりません。このように、2期前の課税売上高を判断基準とします。
廃業を考えている場合、事業規模を小さくして当期の課税売上高が1,000万以下になれば、2年後の消費税を納めなくてすむということです。
(2)簡易課税制度を利用する
もう少し早く廃業したいという場合には、簡易課税制度を利用する方法があります。まず、簡易課税制度とはどういった制度なのかを説明します。
①簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、課税売上高が5,000万円以下である中小企業の事務負担を軽減するために設けられた制度です。届出をした事業者は、簡単な仕入控除税額の計算が認められます。
簡易課税制度を理解するために、原則の課税制度のことを知っておかなければなりません。通常、消費税の納付税額は次のように算出されます。
・納付する消費税=課税売上等に係る消費税−課税仕入等に係る消費税
事業者が納付すべき消費税は、課税売上等に係る消費税(預かった消費税)から課税仕入等に係る消費税(支払った消費税)を差し引いた金額です。この支払った消費税の計算には、備品の購入など消費税を払った取引のすべてが含まれます。
このような消費税の計算は、人手の少ない中小企業にとって非常に大きな事務負担となることは想像に難くありません。この事務負担を軽減するために、届出を行った事業者は、課税売上等に係る消費税(預かった消費税)の一定割合を、課税仕入等に係る消費税(支払った消費税)としてみなすことができます。この仕組が簡易課税制度です。
飲食業であれば、払ってもらった消費税の60%を、支払った消費税とみなすことができます。たとえば、預かった消費税が100万円と仮定すると、100万円の60%である60万円を支払った消費税とみなすことができ、100万から60万円を差し引いた40万円を消費税として納めればよいということです。
この簡易課税制度を利用するためには、利用する課税期間前までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を管轄の税務署に提出する必要があります。期間の半ばや期間後に変更することはできないので、計画的に手続きをしなければなりません。
②みなし仕入率とは
前述したように、簡易課税制度では課税売上等に係る消費税の一定割合を仕入れ控除額としますが、この一定割合のことを「みなし仕入率」といいます。業種によってみなし仕入率は異なり、次のように定められています。
・第一種事業(卸売業) 90%
・第二種事業(小売業) 80%
・第三種事業(製造業等) 70%
・第四種事業(その他の事業)60%
・第五種事業(サービス業等)50%
・第六種事業(不動産業) 40%
③簡易課税制度を利用するメリット
簡易課税制度は、本来、事務負担を軽減するために設けられた制度ですが、節税効果も期待できます。というのも、実際の課税売上に対する課税仕入の割合がみなし仕入率より低い場合、簡易課税制度のほうが支払った消費税が大きくなって節税となるからです。
(3)廃業する前に事業用資産を処分する
事業を継続できる場合は上述したような方法が選択できますが、事情によってはすぐに廃業しなければならないこともあり得るでしょう。こういう場合は、事業を廃止する前に事業用資産を処分することをおすすめします。
事業用資産として処分すれば、処分費用を課税仕入として計上できます。廃業後は、課税仕入として計上できないので、事業廃止前に処分を終わらせたほうが多く計上でき、節税効果が期待できるでしょう。
4.まとめ
個人事業者が廃業する場合、事業用資産を家事用資産として転用すると、みなし譲渡として消費税がかかります。この消費税負担を軽減するための方法がいくつかあり、これらの方法を利用できれば節税が可能です。
今後は、中小企業において後継者が見つからず、廃業を選択する企業が多くなることが予想されます。廃業の際には、このような節税方法があることを覚えておきましょう。
廃業決断の理由やタイミングとリスク、M&Aという選択肢を専門家が3分で解説
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税理士法人中山会計
常務社員税理士 小嶋 純一(こじま じゅんいち )
横浜国立大学卒業後、税理士法人中山会計にて常務社員税理士を務める。相談しやすさNo.1を体現する税理士として自社の経営の実践並びにお客様の経営のサポートを兼務。M&Aスペシャリスト及びM&Aシニアエキスパートの資格を有し、事業承継の出口をサポートするコンサルティングを15年来推進。保険会社・銀行・商工会議所・各士業等とのタイアップによるセミナーなどで講演を全国にて多数行い、身近な相談窓口として活動中。
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